ついに米国でのSPAC上場に急ブレーキがかかりました。SPACとは、Special Purpose Acquisition Companiesの頭文字をとったものです。未上場企業を買収するのを目的として、上場するシェルカンパニー(ペーパーカンパニー)と言えます。SPACは買収企業が決まらないうちに上場することによって株式市場から資金調達するため、ブランク・チェック(金額欄が空白の小切手)カンパニーとも呼ばれます。
2021年5月2日付日経新聞によれば、4月の新規株式公開(IPO)数は13件にとどまり、直近ピークの3月に比べて9割減となりました。その背景にあるのは米国証券取引委員会(SEC)による監視強化です。今まで米国ではこのSPACに大量のマネーが流れ込んでいました。2020年は米国新規株式公開(IPO)の約半分となる248社が上場し、9兆円を集めました。2021年1~3月は社数、調達額がともに昨年1年分を超えたといいます。SPACの最大のメリットは、通常のIPOよりも手続きが省略されるため上場までに期間を短縮できることです。その一方で、さまざまな問題点が指摘されていました。
例えば、本来は上場基準を満たさないような企業が上場してしまうリスクがあります。また、SPACは通常、設立から2年で買収先を見つけられなければ解散し、SPAC株主に資金を返還することになります。SPAC設立者(スポンサー)は買収成立によって多額の報酬を得られる仕組みになっています。したがって、買収価格が割高で株主にとって不利な条件でも、早期に買収を完了させようというインセンティブが働くのです。
この点を取り上げて、著名投資家ウォーレン・バフェット氏はSPACを「キラー」と表現しています。長期的な企業価値の向上などを考えず、買収することだけが目的のSPACです。その存在はM&A市場で買収価格の高騰につながる可能性があるからです。
今回、SECはSPACの情報開示に対して監視を強化するだけでなく、会計方針にもメスを入れました。SPACでは、通常、設立者に報酬の一部として多額のワラント(新株予約権)が付与されます。ワラントとは市場価格より安く株式を取得できる権利です。これは設立者だけでなく、株式の購入を促す目的で一般株主にも割り当てられます。これまで、多くのSPACはワラントを資本の一部として処理していました。ところが、SECは「SPACが発行するワラントは資本ではなく負債として分類し、各期間のワラントの公正価値の変動は収益に反映して報告するべき」という声明を発表したのです。
4半期ごとにワラントの公正価値を評価することによって、結果的にSPACの損益がブレやすくなります。さらに監査の負担は増します。SPACはIPOしてから2年以内に買収先を見つける必要があるというスケジュールにも影響が出てきそうです。今回のSECの動きは、SPAC導入を検討し始めていた日本のSPAC解禁の議論にも影響を及ぼすでしょう。