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自社株買いは1株当たり利益を高めるか

軟調な株式相場を背景に米国企業が自社株買いを加速しているようです。ゴールドマン・サックスによれば、年初来承認された自社株買い総額は過去最高の3190億ドル(約39兆円)と前年同期2670億ドルから急増したといいます。最近の株価急落で自社株買いの魅力が高まり、多くの企業が自社株の取得に動いているのです。

この動きを2022年3月29日付FT(Financial Times)は「米企業の自社株買いが最高 1株当たり純利益高める」というタイトルで報道しています。経営陣は自社の株価を下支えし、流通株式数を減らして1株当たり純利益を高めるために自社株を購入するという説明です。

これは、実務家でも間違えることがありますが、正しくありません。自社株買いによって、1株当たり純利益は、必ずしも高まるとは限らないのです。確かに自社株買いを行えば、株式数は減少します。しかし、同時に当期純利益も減少するからです。

自社株買い実施には資金が必要です。手元現金や有価証券を取り崩して自社株買いを行う場合は、受取利息や配当金の減少に伴って当期純利益は減少します。あるいは、デット(有利子負債)で調達して自社株買いを行う場合は、支払利息の増加によって当期純利益は減少するのです。

それでは、具体的にみてみましょう。ある企業の発行済株式数は1000株で、当期純利益は100万円です。EPS(Earnings Per Share:1株当たり当期純利益)は1000円と計算できます。今回、手元現金100万円を使って自社株買いを行うことにしました。手元現金は預金利率5%で運用していたことから、法人税率40%とすれば、30,000円の受取利息があったことになります。


出所:オントラック作成

ここで、1株40,000円で自社株買いを行うとします。このとき、PER(Price Earnings Ratio)40倍と表現します。PERとは株価がEPS(1株当たりの当期純利益)の何倍になっているかを示す指標です。自社株買い実施後は、当期純利益は97万円(=1,000,000円-30,000円)となり、株式数は975株(=1000株-25株)になります。したがって、EPSは995円と現在のEPS1000円より減少することがわかります。自社株買い後のEPSが1000円になる購入価格をゴールシークで求めると33,333円となります。つまり、PER33倍よりも高い水準で自社株買いを行うとEPSは下がることがわかります。

これで、自社株買いが必ずしも1株当たりの純利益を高めるわけではないことがお分かりでしょう。いずれにせよ、自社株買いの実施は、自社株の価格(株価)と価値との関係抜きにしては判断はできません。つまり、自社株も(自社が考える)価値よりも高い株価(PERが高すぎる水準)で行われた場合、株主(=自社株買いに応じない株主)の価値を毀損することになるのです。

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