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企業と投資家とのギャップ

今回は、生命保険協会が発表している調査資料である『生命保険会社の資産運用を通じた「株式市場の活性化」と「持続可能な社会の実現」に向けた取り組みについて』を取り上げたいと思います。この調査は毎年行われており、上場企業483社、機関投資家100社がアンケートに回答しています。ここでは、私が重要だと思うトピックを取り上げたいと思います。

まずは、投資家の株主還元・配当水準に関する満足度に関するアンケート結果をみてみましょう。79%の投資家は、株主還元・配当水準に対して十分に満足しておらず、コロナ禍前後で投資家のスタンスに変化はないことがわかります。


出所『生命保険会社の資産運用を通じた「株式市場の活性化」と「持続可能な社会の実現」に向けた取り組みについて』生命保険協会(以下同様)

中長期的に望ましい配当性向(当期純利益のうち配当に向ける割合)に関しては、昨年度を上回る59%の投資家が、中長期的に配当性向30%以上を期待する一方、上場企業の未だ44%の企業は配当性向30%未満に留まることがわかります。

中長期的に望ましいROE水準について投資家はどう考えているのでしょうか。前年度を上回る88%の投資家は、中長期的に8%以上のROE水準を期待していることがわかります。その一方で、上場企業の49%がROE8%未満に留まります。2014年に発表された伊藤レポートで「日本企業は最低でもROE8%を目指すべき」と謳われました。それから7年経過しても未だ半分近くの上場企業が未達成とは驚くべきことです。

資本コスト(株主資本コスト)を算出している企業の割合はどうでしょうか。算出していない企業の割合は35%と昨年度と大きな変化はありません。企業が資本コストを把握していないことが投資家の期待との乖離の一因と考えられます。

手元資金の水準の妥当性について企業と投資家はどのように考えているのでしょうか。結果をみると66%の企業は手元資金の水準について適正と認識している一方、余裕のある水準と認識している投資家は74%と、依然として双方の認識にギャップがあることがわかります。

それでは、手元に寝かしている資金を投資家はどうして欲しいと考えているのでしょうか。株主還元を一層推し進めて欲しいと考えているのでしょうか。中長期的な投資・財務戦略において投資家が重視しているのは意外なものです。企業は「設備投資」を重視する一方、投資家は「IT投資(デジタル化)」「研究開発投資」「人材投資」といった無形資産を含む投資をより重視していることがわかります。つまり、株主還元よりも将来の成長につながる未来投資を重視しているのです。

実際のところは日本企業はこれらの領域に投資をしているのでしょうか。下図をみると、日本企業は「設備投資」や「研究開発投資」は増やしてきているものの、米国と比較すると十分とは言えません。さらに、投資家が重視する「人材投資」や「IT投資(デジタル化)」は低水準にとどまっていることがわかります。

これでは「日本企業は手元資金は潤沢にあるものの、未来の成長のための投資が全くできていない」という認識を投資家が持つのも理解できます。未来投資はリターンに結びつくかどうかわからず、リスクが高いと言えます。リスク回避的な行動をとるのが私たちです。積極果敢にリスクをとることは、言ってみれば、人間の本能に抗う行為なのです。だからこそ、経営者は一般社員よりも高給をとっているわけです。そのことをどれだけ日本の経営者は自覚しているのでしょうか。

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