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電力大手の社債発行の裏側

2022年7月18日付日経新聞によれば、大手電力会社が社債による資金調達を増やしているようです。8社が2022年度に発行を計画する社債額は1兆7350億円と、1998年度以来24年ぶりの高水準になる見通しです。これは、資源高や円安で発電に使う燃料費の支払いが増えていることが原因です。日経新聞は、社債の利払いが増え財務が悪化する恐れがあるとしています。財務が悪化する可能性があるのになぜ、電力会社は増資ではなく、社債で資金調達するのでしょうか。

今回は、ペッキング・オーダー理論(Pecking Order Theory)をとりあげたいと思います。この理論は、企業が資金調達するときは、まずは、自己資金を利用し、外部から資金調達が必要な場合は、最も安全な証券から発行すべきというものです。つまり、ペッキング・オーダー理論による資金調達の順番は、自己資金、銀行借入、普通社債、転換社債、普通株式になります。ちなみにペッキング・オーダーとは「トリのつつく順番」を意味した言葉です。

この理論には、最適な資本構成という考え方はありません。企業は、資金調達の必要性に応じて、まず自己資金に手をつけて、それでも足りない場合はデットで調達し、それでも足りない場合は、株式を発行するという順番になります。したがって、企業の現在の資本構成は、あくまでも、現在までどれだけの外部資金を必要としたかの累積額を反映しているにすぎないというわけです。そうだとすると、利益を上げている業績のよい企業は、内部資金が潤沢ですからデットが少ないことになります。

ペッキング・オーダー理論を理解するために、こんな例を考えてみます。経営者であるあなたは、新株を発行して資金調達することを検討しているとします。あなたが経営する会社の現在の株価は1,000円です。ところが、あなたが適正な株価(理論株価)は1,200円だと考えたとしたら、あなたは、株式発行をとりやめるはずです。いくら資金が必要だからと言って、1,200円の価値がある株式を1,000円で市場に売り渡すなんてバカげているからです。このように、あなたの株式が過小評価されていると考えてたら、新株の発行はやめるはずです。

ところが、株価が1,400円だとしたらどうでしょう。あなたは喜んで新株を発行するはずです。本来、1,200円の価値しかない株式を1,400円で購入しようという投資家がいれば、あなたは、既存の株主のために1株につき、わけなく200円儲けることができるからです。この理論の前提にあるのは、情報の非対称性の存在です。つまり、あなたの会社は投資家よりもあなたの方が知っているということです。したがって、あなたの会社が算定した理論株価は市場がつけている株価よりも正しいという前提があるのです。

このとき、投資家はこのように考えるはずです。「もし、あなたの会社が株式を発行するなら、株価は割高に違いない。もし、株式ではなく社債を発行するなら、株価は割安(=お買い得)に違いない」あなたの会社のとるべき戦略は、まずは内部資金でまかなえないかを考えること、次は銀行借入、そのあとは社債発行ということになるわけです。

今回の電力会社の場合、資金使途が燃料費の高騰に対応するものです。したがって、電力会社のフリーキャッシュフローの増加に寄与するものではありません。増資で資金調達した場合、株式数の増加による株式の希薄化(1株当たりの価値低下)を懸念し、株価は大きく下がることが考えられます。こうした事情を考え、社債による資金調達にした可能性はもちろんあります。ただ、ペッキング・オーダー理論からの説明も可能だということです。

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