今回のブログでは、生命保険協会が公表した「生命保険会社による資産運用を通じた株式市場の活性化と持続可能な社会の実現への取り組み」をとりあげます。この年次報告書には、453の上場企業と88の機関投資家が参加しています。その調査結果の中から、私が特に重要と考えるトピックスに焦点を当てます。
まず、機関投資家がどのように中長期的なROE水準を見ているかです。調査によれば、88%の投資家が中長期で8%以上のROEを期待していることが明らかになっています(下図1)。さらに、投資先に求める最低水準として、50%の投資家がROE8%以上を求めています。(下図2)。
出所『生命保険会社の資産運用を通じた「株式市場の活性化」と「持続可能な社会の実現」に向けた取り組みについて』生命保険協会(以下同様)
しかし、上場企業の46%がROE8%未満に留まっているのです(上図参考)。2014年に公表された伊藤レポートでは「日本企業は最低でもROE8%を目指すべき」と提言されていましたが、それから10年経ってもなお半数近くの上場企業がその目標に到達していないのは驚くべき事実です。
次に、資本コスト(株主資本コスト)を算出している企業の割合についてです。28%の企業が資本コストを算出しておらず昨年から大きな変化は見られません(下図3)。また、資本コストに対するROEを評価する際、63%の投資家が企業のROEが資本コストを下回っていると見ており、この点は企業側の認識との間に大きなギャップがあることがわかります(下図4)。
企業と投資家が手元資金の水準についてどのように考えているかについても見てみましょう。70%の企業が手元資金の水準を適正と認識している一方で、77%の投資家は余裕がある水準と見ており、ここにも認識のギャップが存在しています(下図1)。
最後に、投資家が中長期的な投資・財務戦略で重要視していることに触れます。企業は設備投資を重視する一方で、投資家は人材投資、IT投資(DX対応やデジタル化)、研究開発投資といった無形資産への投資をより重視しています(上図2)。これは、株主還元よりも未来の成長につながる投資を優先していることを示しています。
今回取り上げたトピックは調査項目の一部ではありますが、企業と投資家との認識のギャップがあることが分かったのではないでしょうか。投資家と企業間の対話をより推進していくことで、これらの認識のギャップを埋めていくことが、日本の株式市場の更なる活性化と、持続可能な社会の実現につながる鍵になると思います。
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