東京証券取引所が開示した「グロース市場における今後の対応」という資料が話題になっています。グロース市場は、成長性の高い企業が上場する場として位置づけられています。ところが、実際は「グロースしていないグロース上場企業」が問題となっています。2024年3月に「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応について」を公表し、PBR1倍割れの企業に対して改善を求めた東証が次の改革の目玉としているのが、このグロース市場改革です。
現状の課題としてあげられているのが、「IPOを目指す経営者の意識」です。IPOを目指す経営者の中には、上場後に10年間で年20%成長を目指すような具体的な戦略を描けていないケースが多く見受けられると指摘されています。また、日本ではM&Aを出口戦略として活用する文化が十分に根付いておらず、「IPOを果たすこと」が目的化してしまう経営者も少なくありません。さらに、M&Aを「身売り」と捉える誤解やサポート体制の不足が、事業の持続的成長を妨げる要因となっていることがあげられています。
さらに「上場後の経営者の意識」に対して、次のようなコメントがあります。上場後の経営者には、株価の成長や事業拡大への意欲が欠けているケースが多く、一部の経営者は、上場を果たしたことで満足し、その後の成長戦略や株主への価値提供に対する具体的な取り組みが不足しているようです。また、「上場企業の経営者」というステータスに固執し、M&Aや事業統合を検討せず、事業の停滞を招く場合も見受けられます。
また、「経営者を取り巻く環境」においても、いくつかの重要な課題が指摘されています。スタートアップにおけるエコシステムは、ベンチャーキャピタル(VC)がIPOを優先する構造が影響しており、小規模な上場が促進される一方で、十分な成長を目指す意識付けが不足していると言われています。また、上場後にガバナンスが弱体化し、独立社外取締役の実効性が欠如していることも問題です。機関投資家や外部の支援者が成長を促進するエコシステムの構築が必要です。
今後の打ち手として、上場基準や維持基準の見直しを通じて、企業の質を向上させる施策があげられています。また、スタートアップ企業の規模拡大を支援するための合従連衡の必要性について、次のようなコメントもありました。
日本市場はとにかくコンソリデーション(企業間の統合)が必要。プライム・スタンダード市場では「資本コストや株価を意識した経営」の推進によりそうした動きが見られるようになってきたが、グロース市場では同じような事業やビジネスモデルの会社が成長できずに放置されている。人材が無駄に散らばり、それぞれ経営体制を維持するコストを負担するなど、非効率だし、規模が小さく利益も十分に出ていない会社は、攻めの成長投資を行おうとも行えない。【VC・機関投資家など】」
グロース市場には、小規模なシステム会社やコンサル会社などが多く、それぞれが営業部門・管理部門などを持っていて不経済。もちろん社会において必要な事業をそれぞれ営んでおり、ロールアップを行って大きな会社を作っていくことが必要。【経営者(上場)】
さらに経営者の視座について、次のようなコメントがありました。
上場することよりも上場後に株価を上げていくことの方が断然格好いいということ、世界に戦える成長企業を作るためにM&Aを活用していくことは決して悪いことではなく良いことだということ、そのことが買う側はもちろん買われる側にとっても当たり前となっていくこと、こうした考え方を文化として定着させていくことが重要ではないか。そのために、経営者の視座を高めるべく、関係者とも連携しながら取組んでいくことが必要ではないか。【経営者(上場)】
東証の目指す改革を通じて、グロース市場が国内外の投資家にとって魅力的な投資先となり、世界中から資金が集まる活発な市場へと成長することを期待したいです。日本発のイノベーションを生み出す企業が増え、グロース市場が真に世界に誇れる存在となる日の到来を願っています。