最近、日本企業が株主やアクティビスト(物言う株主)の要請を受けて、自社の所有資産を売却する事例が増加しています。例えば、東京ガスの笹山晋一社長は、日本経済新聞の取材に対し「効率が悪い資産は売却する」と明言しています。海外資産も含めて資産構成を見直し、収益性の高い経営体制を確立する方針を示しています。
同社では、エリオット・マネジメントが株式の5%程度を保有しており、エリオットはデータセンター事業への投資や資産の効率化を提言しています。東京ガス側も慎重に見極めを行いながら、不要な資産の売却を進める考えを示しています。
アクティビストはもちろんのこと、一般的に株主が企業が所有する資産として、嫌がるものに、1.現預金、2.有価証券、3.不動産があります。この3つの資産に共通することは、事業とは直接関係がない資産であることです。言い換えれば、株主が自分で投資できる資産だということです。株主は現預金を保有することは可能です。有価証券投資も、不動産投資もリート(不動産投資信託)を通して行うことができます。
要するに、株主は、自分でできることを、わざわざ事業経営のプロである事業会社にして欲しくはありません。自分にはできない事業経営のプロとして、経営者に事業でリターンをあげてもらいたいのです。
東京ガスは、ガス事業の延長だけではなく、長期的な収益の柱として家庭用や事業者向けの太陽光発電の施工や蓄電池運用サービスを挙げており、M&Aや提携を活用し、新たなエコシステムの構築を進めていく方針です。
また、東京ガスの他にも、サッポロホールディングス(サッポロHD)に対して、3Dインベストメント・パートナーズ(3D)は不動産売却を要請しています。3Dは、サッポロHDに対して以下の主張をしています:
1.サッポロHDの株価が2006年以降、競合と比較して大幅にアンダーパフォームしている
2.ビール事業への投資が少なく、不動産事業に多くの資産が充てられている
3.不動産事業は本来の収益力を発揮していない
3Dは、サッポロHDが保有する不動産、特に恵比寿ガーデンプレイスを含む不動産ポートフォリオの売却を提案しています。不動産を売却して含み益を顕在化させ、その資金を本業の強化に充てることで、サッポロHDの成長につながるとする3Dの主張は極めて真っ当なものです。
私が驚いたのは、三井不動産が2024年の新たな経営計画で、今後3年間で約2兆円規模の不動産を売却する方針を発表したことです。この決定には、エリオット・マネジメントの影響があるとされています。同ファンドは、三井不動産に対し以下の提案を行っています。
1.約2兆円の不動産売却(3年間で)
2.オリエンタルランド(OLC)株式の売却(約5000億円相当)
3.1兆円規模の自社株買い
三井不動産は、まさに不動産事業経営のプロです。そんな企業が、アクティブファンドから不動産売却を求められ、その提案に沿う形で大規模な売却を進める姿勢には、大きな違和感を覚えます。経営のプロであるはずの企業が、自らの判断ではなく、外部からの圧力に応じる形で事業戦略を左右されるのであれば、経営者の存在意義はどこにあるのでしょうか。
経営者は、本来、株主の意向を踏まえつつも、自らの信念と長期的なビジョンを持ち、企業価値の最大化を目指すべき存在です。しかし、昨今の日本企業においては、こうした経営者の矜持が感じられない場面が増えているように思います。短期的な株価対策や一部の株主の意向を優先し、企業が持つ本来の競争力や成長の源泉を手放すことが、本当に中長期的な企業価値の向上につながるのか、改めて問われるべきではないでしょうか。