社長ブログ社長ブログ

再びの警鐘。ソフトバンク債「年利4%」の正体

かつて、2016年にブログ「売れないソフトバンクの社債」と題し、同社が発行する社債(ハイブリッド債)のリスクについて書きました。当時、私が指摘したのは「プロ(機関投資家)が敬遠する商品を、個人投資家が喜んで買っている」といういびつな構造でした。

あれから約9年。最近また、ソフトバンクグループ(SBG)の社債が話題です。「年利約4%」という数字が躍り、証券会社の営業担当やネット広告が個人投資家の関心を集めています。状況をあらためて整理してみると、結論はこうです。

「構造は当時のまま、むしろ環境は『金利がある世界』になったぶん、慎重さがより求められている。」

なぜ、再び同じような警鐘を鳴らすのか。その理由を、今回は少し整理してお伝えします。

ソフトバンク債はどんな商品か?

今回話題になっているソフトバンク債(2025年11月決定の第67回無担保普通社債)の発行条件は次の通りです。

・種類:無担保普通社債
・期間:7年
・利率:年3.98%(≒4%)
・調達のメイン:主に個人投資家(機関投資家も購入可能)

2016年に話題になったのは「ハイブリッド債(劣後債)」でしたが、今回の債券そのものはハイブリッドではなく、普通社債です。ただし、SBGは別途ハイブリッド債も多用しています。

変わらない「格付けのねじれ」

まず、最も冷静に見るべき事実は、SBGという会社に対する評価が「日本ローカル」と「グローバル」で真っ二つに割れていることです。パンフレットや募集資料を見ると、多くの場合、次のような説明が強調されます。「格付投資情報センター(JCR)によるA格(投資適格)です」

Aと言われると、多くの個人投資家は「そこそこ安心なんだな」と感じるでしょう。一方で、海外の主要格付け機関の評価はこうなっています。

・S&P(世界):BB+(投機的格付=いわゆるジャンク)
・Moody’s(世界):Ba2(投機的格付=ジャンク、しかも非依頼格付)

金融の世界では、BB格/Ba格以下は、はっきりと「投機的」=ジャンク債ゾーンとして扱われます。日本の個人向けには「A格の安心企業」だとアピールし、巨額の個人マネーを調達するというという構図自体は、2016年当時からほとんど変わっていません。むしろ、個人向け社債の累計発行額はさらに積み上がっています。

「Moody’sへの抗議」が示す余裕のなさ

さらに今回は、当時になかった動きもありました。 2025年9月、SBGは格付け会社大手のMoody’sに対し、「依頼していない格付けを勝手にするな」と猛抗議し、格付けの公表を即刻停止するよう公式に迫りました。Moody’sが付与していた格付けもまた、投資不適格級でした。 「低い評価をつける格付け会社に抗議をする」という姿勢は、裏を返せば、市場からの評価に対して余裕がなくなっていることの表れではないでしょうか。プロの投資家は、こうした企業の振る舞いを非常に警戒します。

「金利ある世界」での4%という数字

2016年との決定的な違いは、金利環境です。当時は、日本はゼロ金利~マイナス金利の状態にあり、10年国債の利回りはほぼ0%近辺という、お金にほとんど利息がつかない世界でした。その中で、ソフトバンク債の3%台というクーポンは、確かに目を引く存在でした。

ところが、2025年現在は状況が違います。日本の10年国債利回りは、約2%であり、日銀の政策金利もさらなる利上げ観測もあるという、金利がある世界になりました。

この環境で、ソフトバンク債の約4%という利回りをどう見るか。簡単にいえば、「日本国債+約2%のリスクプレミアムで、SBGのリスクに見合っているか?」という問いになります。「4%」という数字だけを見て「定期預金より全然いい」と飛びつくのは、やはり慎重さを欠いていると言わざるを得ません。

成功体験という「罠」

「でも、前回(2016年)の時も『危ない』と言われたけど、結局ちゃんと償還されたし、儲かったじゃないか」とそう反論する方もいるかもしれません。確かに、SBGはアームの上場などで資金を繋ぎ、破綻はしていません。 しかし、投資の世界で最も危険なのは「前回大丈夫だったから、今回も大丈夫」という正常性バイアスです。

SBGが好んで発行する「ハイブリッド債」や「劣後債」には、発行体の都合で償還を延期できる条項がついているケースがほとんどです。金利上昇により、借換コストが膨らめば、SBGが「繰上償還しない(債券価格の実質暴落)」という選択肢を取る可能性は、低金利だった過去よりも高まっています。

4%は「ごほうび」ではなく、「リスクの対価」

グローバルな視点ではジャンク債ゾーンのリスクを抱えた企業が、日本ローカルの格付と販売チャネルを駆使して、家計の資産から巨額の資金を調達している。

そのときに個人投資家が受け取る「4%の利回り」は、タダでもらえるごほうびではなく、プロが敬遠、あるいは慎重視するリスクを引き受けるための「対価」です。リターンの数字だけに目を奪われ、その裏にあるリスクに思いが至らない個人投資家が、9年前と同じように、いや当時以上に多いように感じられる現状は、やはり残念です。

虎の子の資産を守るためにも、パンフレットの「A格」「年〇%」という大きな文字だけではなく、その裏側にあるリスクを、自分なりに読み解いていくリテラシーが求められています。

動画配信開始