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サイバー藤田氏が示す「引き際」の美学とプロフェッショナルが持つべき「勝負眼」

経営者の「出処進退」ほど、難しいものはありません。ましてや、創業社長となればなおさらでしょう。その点、サイバーエージェントの藤田晋氏は、あらかじめ社長交代のロードマップを描き、2025年12月12日付で社長を退任し会長へ移行する人事を公表、実行しました。自らの退き際をこれほど潔く決断できる背景には、どのような哲学があるのでしょうか。

最新刊「勝負眼」は、結果的に、2代目社長への「引き継ぎ書」に肉付けをしたような内容になったと語っています。藤田氏は、カリスマ創業社長が引き際で晩節を汚すケースが多いことに触れつつ、「最後はカッコよく去りたい」という文脈で、安室奈美恵さんの名前を挙げています。本書の中でも私の印象に残った部分を取り上げます。

本書の中で、特に共感し、印象に残ったのが「株主と経営者の間にある埋められない溝」という記述です。

投資家の論理は、ポートフォリオ全体での最適化です。EコマースならA社、ネット広告ならB社、メディアならC社という具合です。投資家は「ネット広告の成長」を期待して投資しているのであり、その会社が勝手にメディア事業を始めて赤字を出し、本業の利益を圧迫することを望みません。多角化は投資家側でやるから、個別企業は本業に専念してほしいというのが投資家の本音です。

しかし、経営者の視点は異なります。サイバーエージェントも、かつては広告代理業が中心でしたが、利益率の限界や価格競争という現実に直面していました。優秀な人材に高い給与を払い、高収益体質を作るためには、自社メディアを持つという選択は「生き残るための必然」だったのです。

いかに丁寧に説明しても、「今の延長線上にない未来」は投資家には理解されない。不特定多数の投資家全員に納得してもらうのは不可能だと諦めた上で、それでも対処しなければならない。そこには、見せ方や伝え方を工夫しつつ「騙し騙しやってきた」という、上場企業のトップとしてのリアルな述懐がありました。

こうした「投資家の期待」と「経営の現実」の折り合いをつける上で、欠かせないのが規律(ディシプリン)です。藤田氏は「始めることより撤退を決めることの方が大事だ」と断言し、感情を排除した仕組みを社内に構築しています。

・撤退の仕組み:2四半期連続の減収減益などの数値基準
・KKK会議(企業価値改善会議):他部署のメンバーがチームに分かれ、客観的に分析し、継続か撤退かをジャッジする

藤田氏ほどの経営者であっても「自然体では撤退の判断は難しい」と正直に語っています。だからこそ、あらかじめ決めた「社内ルール」のせいにすることで、サンクコストに囚われず、強制力を発揮させられるといいます。KKK会議で引導を渡された責任者が、どこか安堵の表情を浮かべるというエピソードは、事業責任者の精神的な過酷さと、誰かに背中を押してもらう仕組みの必要性を物語っていると思いました。

仕組み(ハード)を整えた上で、次に重要になるのが、それ動かす「人(ソフト)」へのアプローチです。若手マネジメントのヒントとして非常に興味深かったのが、自身が社長でもあるFC町田ゼルビアの黒田剛監督の言葉を引用した「悲劇感を揺さぶれ」という言葉です。

今の若者の心理は、:「100万円欲しい」というハングリー精神よりも、「自分のせいで仲間に迷惑をかけたくない」という責任感が強い。モチベーションの源泉は、「優勝したらご褒美」という理想よりも、「失敗したら今の仕事を失う」「仲間に恥をかかせる」というネガティブなイメージ(悲劇感)の方が、土壇場での踏ん張りを生む。

これはZ世代に限らず、満たされた時代を生きる全世代に共通する傾向かもしれません。夢や理想を掲げるだけでなく、あえて「このままでは大変なことになる」という危機感を醸成する。藤田氏自身が20年以上の経営で心掛けてきたことを言語化したのが、まさに「悲劇感を揺さぶれ」という言葉だったのです。

本書の表紙の裏には、藤田氏が「経営者としての想いや心構え、様々な手法を書き残すことができた」と記されています。今後、経営者を目指す方々にとっても、非常に得るものが多い書籍だと思います。ぜひ、皆さんの「勝負眼」を養うヒントにしてみてください。

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