2016年5月19日付日経新聞に日立製作所の中期経営計画についての記事が掲載されていました。一部を抜粋すると以下の通りです。
日立製作所は18日、2019年3月期の売上高営業利益率の目標を8%超に設定したと発表した。東原敏昭社長は記者会見で「構造改革を進める」と強調し、売上高営業利益率5%未満の事業は撤退する方針だ。買収などに1兆円を投じる計画も表明し、あらゆるモノがインターネットにつながる「IoT」を軸に事業の入れ替えによる新陳代謝を進め、欧米大手に対抗する。
ここで私が着目したのは、事業の撤退方針です。日立は売上高営業率が5%未満の事業は撤退するとあります。実は、日立のように事業の撤退方針を公表している企業は多くはありません。多くの企業は、投資するときは、社内で喧々諤々の議論をするものの、投資後のモニタリングの仕組みがなかったり、事業撤退の方針、つまり、EXITルールを明らかにしていません。
EXITと言っても、何も撤退だけを言っているのではありません。縮小、売却、清算といった様々な選択肢があるわけです。判断が遅くなればなるほど、選択肢は少なくなっていくものです。
日本企業の場合、あらかじめ、撤退方針を決めることを良しとしない文化があるような気がします。つまり、極端なことを言えば、「やる前から、お前は失敗のことを考えているのか、けしからん」といった雰囲気があるような気がするのです。
もう一点、同社の中期経営計画で目を引いたところがあります。それは、計画の中に今はやりのROEではなく、ROAという指標を目標値として掲げていたのです。経済産業省の「持続的成長への競争力とインセンティブ~企業と投資家の望ましい関係構築~」プロジェクトの最終報告書(いわゆる伊藤レポート)が発表されて以来、日本企業の間にROE8%という数字が一人歩きしています。
このROE8%という数字自体は業種の違いを考慮していない単なる目標値というよりも、参考値といった方が良い数値です。仮にROE8%という数字を達成したとしても、企業価値を創造しているとは限りません。
前回のブログでは、BS頭について説明しました。「BS頭の社長とは、インプットとアウトプットの両方を考えることが出来る社長です。つまり、限られた経営資源(ヒト、モノ、カネ、情報)などのインプットを営業利益というアウトプットにどのように結びつけるかを考えることが出来る」ということです。
ROEという指標は、株主資本というインプットを当期純利益というアウトプットにどれほど結び付けられるかという投資効率を測る指標です。言い換えると、株主目線での指標なのです。もちろん、経営者が株主の視点で考えることは大事です。ですが、ROEの意味が分からずに、ただ闇雲に目標値を掲げるのは考えものです。
一方で、ROAは、総資産というインプットを当期純利益というアウトプットにどれほど結び付けられるかという経営効率を示す指標です。つまり、経営者目線での指標なのです。経営者としては、こちらの指標を重視すべきでしょう。日立製作所は2018年のROAを5%超にすることを目指しています。ところが、日立製作所がROAを5%超となったところで企業価値を創造しているかは分かりません。
つまり、ROEもROAも何パーセント以上となれば、企業価値を創造しているかが分からないと言えます。それでは、何パーセント以上だと企業価値を創造していると言える指標はあるのでしょうか。もちろんあります。それこそが、ROICです。企業経営者が求められているのは、WACC以上のROICを上げること、その時、企業は価値を創造していると言えるわけです。