収益不動産で使われる利回りには色々な表現方法があります。皆様には既知の内容が多いと思われますが、あまり本で紹介されていない内容も含めて、私なりの見解をまとめてみました。
最初に利回り表現の前提条件を定義した上で、用語の難易度順にレベル1からレベル4に整理します。
レベル1からレベル3で紹介する利回りは、運用時の税支出を考慮しない税引前の利回り表現になります。概ね、投資初年度の単年度収益のみに着眼する方法なので、将来の売却価格は取得価格に等しいという前提があるので注意してください。レベル4は皆様お馴染みの企業価値評価FCFに対応する利回り表現となります。少し長文になりますので、全3回に分けて連載いたします。業界で使われる共通言語の理解としてお役立てください。
前提条件 税抜き表現と税込み表現(消費税について)
各種の利回りに共通して、税込み利回りまたは税抜き利回りという表現があります。
利回りとは、果実である収益を本体価格で除した率を表すものですが、「本体価格=土地価格+建物価格」であり、土地価格は消費税の課税対象ではなく、建物価格のみに消費税が付加される仕組みになっています。
ご想像のとおり、税込み利回りとは税込み本体価格で除する利回りであり、税抜き利回りとは税抜き本体価格で除する利回りのことになります。売主が、消費税を納める課税業者ならば本体価格は税込みになりますし、個人のような最終消費者であるならば本体価格は税抜きになります。
さて、どちらの利回りを採用するのが正しいのかということについては一概に決めつけるものではありませんが、基準としては税抜き利回りで統一する方が望ましいように思います。何故ならば、税込み表現をすると売主の属性により本体価格が変わってしまうので、利回りという率に違いが生じるからです。売主の事情に左右されない利回りを表現するためには、本体価格に税抜きを採用する方が共通言語としては望ましいと思われます。
但し、税抜きの本体価格から消費税を計算する方法は、専門的な税務知識が必要な部分になりますので、仲介業者がこれを避ける意味合いで、物件の概要書などには、税込みの物件価格を表記する場合が多いようです。
レベル1 表面利回りとネット利回り
表面利回り=年間満室賃料 ÷ 本体価格・・・税抜き、税込みの表記法あり
業界で最もポピュラーな利回りであり、グロス利回りという言い方もします。分子である年間満室賃料は、入退去のない100%稼働の受取賃料総額を採用します。また、物件にかかる固定資産税や管理運営費などの費用は控除しませんので、見せ掛けの利回りでありキャッシュフロー計算には何ら役に立たない計算方法とも言えます。
但し、その事情を承知の上で、業界人は日常的にこの利回りを使います。非常に簡便的な方法ですが、計算が容易なので相場の目安を表現する共通言語として便利だからです。「表面利回りなんて、何の意味もないよね!」なんて玄人ぶって業界人に言ってしまうと、陰で笑われるので注意しましょう。
ネット利回り=(年間満室賃料-空室損-運営経費)÷ 本体価格・・・税抜き、税込みの表記法あり
分子をNOI(Net Operating Income純収益)という言い方をすることもあります。これは、100%稼働のグロス賃料から機会損失を考慮した空室損を差し引き、さらに恒常的に発生する経費を控除した実質的な手残りを意味します。運営経費には減価償却費を含めないとし、大規模改修や設備更新などの突発的な工事費用(資本的支出)も含めないルールになっています。
但し、区分所有マンションの修繕積立金は資本的支出に該当するものの、税務的に費用計上できるので、恒常的な経費として処理します。また、入退去で発生するクリーニングやクロス張替などの修繕費用は、恒常的費用として控除対象になりますので注意して下さい。
ネット利回りとNOI利回りは同じ意味ですが、業界の一般的な共通言語としてはネット利回りが使われることが多いようです。このネット利回りは、表面利回りよりは精緻なので、利回りという言葉に幻惑されて儲けの尺度を直接的に表現する指標なのかと勘違いしそうになりますが、これは否です。表面利回りと同様に、相場の目安を表現するためのひとつの数値または指標程度のものと理解されると良いでしょう。
次回に続く。
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