レベル2からレベル3について説明します。前回の繰り返しになりますが、これらの利回りは、運用時の税支出を考慮しない税引前の利回り表現で、概ね投資初年度の単年度収益のみに着眼する方法であり、将来の売却価格は取得価格に等しいという前提があります。くれぐれも注意してください。
レベル2 還元利回りとNCF利回り
還元利回り(キャップレート)=税抜き本体価格を分母とするネット利回り(NOI利回り)
ファンド運用者や金融機関、不動産鑑定士などのプロが積極的に利用する用語で、専門家の間で相場観を相互認識するためのスタンダードな利回り表現です。別名で資本化率とも言われるように、NOI(純収益)から本体価格へ還元する率の指標であり、利回りという表現よりも価格への還元率と理解した方が分かり易いと思います。
また、還元利回りを算出する場合の分母は必ず税抜きの本体価格になります。前回の前提条件でも触れたように、売主の事情に左右されない本体価格とするために税抜き価格を採用しているのです。
さらに、分子にNOIを採用している理由は、いかなる物件運用者においても恒常的に必ず発生する経費のみを考慮するためであり、運用者の事情に関わらず共通の還元率を表すことができるようにするためです。将来の改修工事に起因する資本的支出(修繕積立金)は、運用者の嗜好や投資戦略の相違により、その支出額が大きく変わる可能性がありますので、共通の土俵に乗せるには資本的支出を考慮しないNOIベースの還元利回りが基準になります。
JREITの証券化情報など時系列データとして整備される利回りは、キャップレートを採用するのが一般的です。また、物件取得時の投資初年度の期首NOIを分子とする資本化率を総合還元利回りといい、投資終了年の期末NOIを分子とする資本化率を最終還元利回りと言います。
NCF利回り=(NOI-CAPEX)÷ 税抜き本体価格
NCF(Net Cash Flow 正味純収益)は、NOIからCAPEX(Capital Expenditure 資本的支出)を差し引いた、所得税または法人税控除前の手残り収益を意味します。
ここで考えるCAPEXとは、共用部の大規模改修とか居室部の設備更新(キッチン・バス・トイレ・フローリングなど)に伴う運用期間中の再投資総額を年当りに平均化した修繕積立額になります。区分所有マンションの修繕積立金はCAPEXと似ていますが、この積立金は共用部のみの準備金なので注意が必要です。
NCF利回りは、将来の賃料変動がなく、投資終了時の売却価格が取得価格と同じで、さらに全額自己資金で投資した場合の税引き前の収益率になります。業界では、ネットネットという言い方をする人もいますのでNCFのことだと理解すればよいでしょう。
この利回り表現まで来ると、価格への還元率という意味合いとは違い、ある程度の収益率を反映するものと言えます。
レベル3 FCRとCCR
米国不動産管理協会等において、収益不動産の評価指標として積極的に推奨している利回り用語です。業界ではまだ馴染みが薄い印象ですが、少しづつ認知されてきたようです。この方法は、投資家目線で収益評価を試みようとする立場であり、本体価格は必ず税込み価格を採用します。
レベル2までは、売主の事情に左右されないという考え方を尊重し表現の汎用性を重視していましたが、レベル3の立場は、取得する投資家の個人的な問題に深く立ち入るというスタンスを取ります。不動産投資家が物件取得を検討する際の道具として、便利な指標だと思います。
FCR(Free and Clear Return 総収益率)= NOI ÷(税込み本体価格+取得時諸経費)
※取得時諸経費=仲介手数料+不動産取得税+登録免許税+印紙税+抵当権設定費用+資本改善費用など
分母は、物件取得時の全ての経費を合算します。中古物件を取得した時に発生する建物の修繕や改良に伴う機能向上工事など取得時費用の全てを含めます。レベル1のネット利回りを更に強力にした感じです。このFCRをネット利回りという方もいますので、ケースバイケースで使い分けて下さい。
分子はNCFではなくNOIになります。NCFでないので保有期間中のCAPEXは考慮しませんが、将来の賃料変動がなく、投資終了時の売却価格が取得価格と同じならば、収益不動産が有する真の税引前収益率に近くなります。新築レジデンスを取得し10年未満で売却する場合はCAPEXが発生しないことが多いので、リーシングを巧みにして家賃変動を極力避ければ、FCRは収益不動産が本来有する全投資期間での収益率に近づきます。
CCR(Cash on Cash Return 自己資本配当率)=(NOI-ADS)÷ 自己資金
※自己資金(Equity)=税込み本体価格+取得時諸経費-取得時借入金
ADS(Annual Debt Service 年間負債返済額)は、金融機関からの借入金に対する年間返済額です。元金と利息の合計額になります。
CCRは自己資金利回りと言われるもので、保有期間中の自己資金の単年度の回収率を表現する指標です。不動産投資は金融機関からの借入が基本となりますので、投資家にとってはとても関心のある利回りと言えます。借入金の調達金利を低く抑えることで、レバレッジ効果によりCCRを向上させることが期待できます。また、自己資金100%の場合のCCRはFCRになります。
余談になりますが、収益不動産の利回りで、税金を考慮しない指標が多いことについて考えてみます。
企業価値評価は、所得税などの税金を考慮した税引後評価を一度の計算で反映させますが、収益不動産の場合は、FCRやCCRのようにまずは税引前評価で検討します。何故ならば、不動産では取得者が個人なのか法人なのかで税金の計算方法が異なるからであり、取得者の属性にシビアだからだと思います。
さらに企業にはBS(貸借対照表)があり、その勘定科目の要素に不動産や預金などがあります。勘定科目の集合体がBSとも言える訳で、それが会社を会計的に表現するものであり、全体を評価するのが企業価値評価です。
一方、収益不動産の評価は、例えば会社が保有したい資産のひとつを評価することになります。新たに会社のポートフォリオに入れたいと検討する収益不動産について、その取得により生じた会社の税金の増分を計算するには、まずは会社の現状の実効税率を知り、さらに不動産の増分で生じた税率の差を検討しなければなりません。中堅企業以上の会社で小さな収益不動産を取得するくらいならば大きな違いにはなりませんが、小さな資産管理法人ならば、不動産の増分による会社の実効税率の違いは無視できなくなります。
このように収益不動産のバリュエーションでは、税引後評価を一度の計算で反映させることに無理があるのだと思います。以上の理由から、収益不動産の税引前評価という観点は無視できないのだろうと考えています。
次回に続く。
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