今回は週刊東洋経済の最新号の「経済を見る眼」に掲載された神戸大学大学院教授の三品和弘氏の記事を紹介したいと思います。
三品氏は、日本企業を取り巻く課題は多岐にわたるように見えて根っこの部分は同じだと言います。米国企業を米国企業たらしめる経済原理は「組み合わせ」の経済。これは経営資源を組み替えることで新たな価値を生み出すと、それが競争優位の源泉になるという考え方。その前提として人やカネの流動性が欠かせないと言えます。
それと対極をなすのが日本企業を日本企業たらしめる経済原理である「蓄積」の経済。これは市場では買うことが出来ない対外信用やノウハウを長年にわたって蓄積すると、それが競争優位の源泉になるという考え方。その前提として人やカネの安定性、すなわち長期雇用や安定的株主が欠かせないわけです。
人の面では「終身雇用、年功序列、協調型組合」による日本型経営システムが、また、カネの面ではメインバンクシステムという日本型金融システムが全面的に日本企業をバックアップしていたのです。
2つの経済原理は二律背反の関係にあってそれぞれに一長一短があります。ところがここに来て、経営環境や技術の進歩が急激に変化することによって蓄積してきた資産が価値を失うということが起きていると言えます。つまり、「蓄積」の経済が成り立たなくなっているということです。
その最たる例として三品氏は研究開発をあげています。社内に閉鎖的な研究所をつくり、コツコツと知見を蓄積しても、これだけ変化が激しい時代にあって世界の競争に太刀打ちできるとは限りません。一方、社内外の経営資源を組み合わせ、新しい商品やサービスを創り出すオープンイノベーションが隆盛を極めています。また、M&Aも新たな組み合わせを求める行動と言えます。
そう考えれば、入社して数年の若者の離職がいま問題になっているのも理解できます。「蓄積」、つまり経験を積まないと一人前扱いしない企業の姿勢に幻滅するのでしょう。また、女性の活用が一向に進まないのも同根と言えましょう。企業が「蓄積」に価値を見出す限り、キャリアの中断を余儀なくされる女性はハンディキャップを背負うことになります。女性活用と声高に叫んでみても、企業の価値観を変えない限り問題は解決しないと言えます。
「組み合わせ」の経済原理に転換せよ、と言われてみてもそう簡単にはいかないでしょう。なぜなら、経済原理の転換は、日本企業を日本企業たらしめる経済原理を捨て去ること。つまり、自己否定なくして出来るものではないからです。ただ、日本企業が過去の成功体験に固執する限り、世界で生き残ることは出来ないのも確かなのです。