金融庁と東京証券取引所から出されている企業統治の指針、コーポレートガバナンス・コード改訂に伴い、「資本コスト」に注目が集まっています。この週末は、『図解&ストーリー「資本コスト」入門』を読みましたのでご紹介したいと思います。
この本では、ミツカネ工業という架空の会社をモデルに社外取締役3名をめぐるストーリー展開になっています。著者の岡氏は30年以上M&Aコンサルティングの世界にいる方です。現在は三菱商事やソニーなどの社外取締役を務めています。そんな岡氏が「資本コスト」をどうとらえ、どう説明するかに興味を持ったのです。
架空の物語とは言え、取締役会でどのようなことが論点になり得るのか、とてもよく理解できます。この本の真骨頂は第三章「資本コストに見合う買収価格」以降の後半かも知れません。
買収対象企業の企業価値評価(DCF法)をする場合、将来のFCFを現在価値に割り引く際の割引率はどう考えるのでしょうか。買収対象企業の資本コストを使うべきなのか、それとも、買い手側のハードルレート(割引率)を使うべきなのか。もし、あなたが即答できなければ、これを理解するためだけでもこの本を読むべきかも知れません。
また、買収対象企業の価値算定においては、買収後に買い手に発生する可能性のあるガバナンスコストを考慮すべきという指摘は説得力があります。岡氏は買収後にグループ傘下に入った子会社をガバナンスする観点から次の4つのコストが重要だと言います。それは、経営陣の人事と報酬、100日プランの実行コスト、コミュニケーションコスト、経営を見える化するためのコストです。
また、岡氏は「シナジー効果には4つのタイプがある」と言います。シナジー効果の実現可能性の検証においては、親会社と子会社のうち「誰が努力するのか?」と「誰の損益計算書(PL)に貢献するのか?」という二つの軸で、各シナジー効果を分類し、検証する必要があるという指摘にはなるほどと納得させられました。お薦めの本です。