今月1日にジャック・ウェルチ氏が84歳で亡くなりました。ウェルチ氏は、1981年から2001年まで20年に亘りゼネラル・エレクトリック(GE)のCEOを務めました。私がビジネススクールに入学した2000年当時、授業のケーススタディにもGEが取り上げられていました。
ウェルチ氏がCEOに就任する前年に約268億ドル(約2兆9,000億円)だった売上高は、退任の前年には約1,300億ドル(約14兆円)になっています。20世紀末には株式時価総額が5,000億ドルを超え、世界トップに君臨していたのがGEです。当時、ウェルチ氏が「世紀の経営者」と言われたのも納得がいきます。
ウェルチ氏の強力なリーダーシップとM&Aにより、GEは産業機器や金融を中心とした巨大コングロマリット(複合企業)として成長を続けました。様々な事業を営むコングロマリットはリスクを分散し、収益を安定化させると言われました。
しかし、ファイナンスの観点からは、コングロマリット・ディスカウントという言葉が示す通り、コングロマリットは評価されません。リスク分散は投資家が自ら行うことが出来ます。むしろ、はっきりしたシナジー効果がない複数の事業を抱える複合企業に対しては投資家は厳しい目を向けるのです。
ニューヨーク大学大学院のダモダラン教授は2005年、GEの幹部たちに同社の事業の複雑さが問題になる可能性があると警告したといいます。
「数多くの企業買収を通して成長したのだから、複雑になりすぎるのは分かっていたはずだ。当時私は彼らにこう言った。『今はうまくやっているが、危機が起きたらまた(問題に)つきまとわれるようになる』と」※出典 The New York Times 2017/06/25
「私が成功したかどうかは、今後20年間に私の後継者がどれほど成長するかによって決まるだろう」とウェルチ氏は退任した年に語っています。それから18年後の2017年6月に、ウェルチ氏が自ら選んだ後継者であるジェフリー・イメルトCEOが退任しています。「ウェルチ氏の複合企業モデルを捨て去ったという点についてはイメルトは賞賛に値する。だがやるのが遅すぎた」と前出のダモダラン教授はコメントしています。
かつて名門企業と言われたGEも足許の業績は惨憺たるものです。過去5年間で黒字だったのは1回だけです。株価も2000年のピークから80%近く下がっています。ウェルチ氏は死ぬ間際、どんな想いで自分の経営者人生を振り返ったのでしょうか。