楽曲の権利と価値

アメリカの人気歌手テイラー・スウィフトの初期のアルバム6枚の所有権を投資ファンドが取得したという報道がありました。フィナンシャル・タイムズによると、買収価格は3億ドル(約310億円)を超えたといいます。

これで思い出すのがビートルズの話です。ビートルズがアメリカで華々しいデビューをかざる少し前に、ポール・マッカートニーとジョン・レノンがなんの疑問も抱かずにサインした契約書。そこには、なんと「楽曲の権利を会社に譲渡する」という内容が書かれていました。

ポールとジョンから著作権を譲り受けた会社「ノーザンリングス」はその後、上場しました。まさに誰でも株式を買えるようになったのです。その後、あのマイケル・ジャクソンが5,300万ドル(当時のレートで130億円)で権利を購入しました。実はポールとオノ・ヨーコは権利を買い取るチャンスがありました。ところが、価格面で折り合わず、結局その価値が分かっていたマイケル・ジャクソンに権利を取得されてしまいました。マイケルの死後、その権利はソニーATVミュージックに移りました。ポールは買取交渉とともに訴訟を開始し、やっと和解が成立したのが2017年といいますから、ポールが自分の曲を取り戻すのに半世紀の月日がかかったことになります。

矢沢永吉はビートルズが音楽とビジネスの両方を自分に教えてくれたといいます。著書「アー・ユー・ハッピー?」の中で、権利関係のことを考えるようになったのは、ビートルズの影響が大きいと語っています。権利関係があいまいにされた、かつての日本の音楽業界の中にあって、矢沢永吉は、早い時期から楽曲だけでなく、キャラクターグッズ、写真のネガや肖像権を自分の会社で管理するようにしたのです。

スウィフト自身は、自分の楽曲所有権の買取りをここ数年交渉していたといいます。ところが、所有者は、スウィフトではなく、投資ファンドに売却したわけです。自分の曲を買い取る立場のスウィフトが提示する金額とこれから楽曲がどれだけのキャッシュフローを生み出すかを考える投資ファンドが提示する金額では大きな差があったのではないでしょうか。自分の楽曲の価値が分からなかったという意味では、スウィフトもポールたちと同じ過ちを繰り返してしまったということかも知れません。

※参考文献「会計の世界史(日本経済新聞出版社、田中靖浩著)

 

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