今回は、「一休.com」の社長、榊淳氏の著書「DATA is BOSS」を紹介します。普段、ビジネス書を最後まで読み切ることが難しい私ですが、この本はわずか2日間で読了してしまいました。それほど、この本が提供するデータドリブン経営の実践とその重要性に引き込まれました。ビジネスの中心にデータを据えることの重要性を理解していても、具体的に何から始めれば良いのか分からない人は、私を含めて多いのではないでしょうか。そんな私たちに、この本はステップバイステップで具体的に指導してくれる心強い一冊です。
榊氏が経営する株式会社一休は、2022年3月期の売上高が約350億円、営業利益が180億円に達し、営業利益率は驚異の約50%を記録しました。データドリブン経営を2012年に導入し、売上高を10倍にまで拡大させたという実績は驚くべきものです。この劇的な成長の背後には、データを効果的に活用し、顧客理解を深め、顧客満足度とリピート(継続)率の向上を実現している点が挙げられます。
榊氏の経歴もまた非常に多彩です。銀行員としてキャリアをスタートさせ、スタンフォード大学でコンピューターサイエンスを専攻。その後、ボストン・コンサルティング・グループ(BCG)での経験を経て、一休に参画しました。データサイエンティストとしての能力と経営者としての視点を兼ね備えることで、榊氏はデータとビジネスの橋渡し役を果たし、一休でのデータ活用を推進しています。
榊氏のキャリアを聞くと「榊さんだからこそできたのでは?」と突っ込みをいれたくなります。しかし、「DATA is BOSS」は、データドリブン経営の基本を理解し、実践するための入門書です。榊氏はいいます。
顧客を大事にすればするほど、顧客行動(≒データ)をより深く知ろうとするのは自然なことです。(中略)顧客行動から隠れたニーズを見つけて、提案という形でお返ししていく。これが『データドリブン』であり、『ユーザーファースト』の具現化です
榊氏は「一休で何を変えたのか?}とよく聞かれるそうですが、その答えは「取引先ファースト」から「ユーザーファースト」に変えたことだと言います。では、具体的にどうやってデータを活用すれば良いのでしょうか。
本書では、顧客行動を可視化するための独自のフレームワークや分析レポートが紹介されています。特に印象的だったのは、「一休.com」で実践されている「顧客行動の見える化レポート」10選です。シンプルなチャートでありながら、そのデータからどのような示唆を得て、どう意思決定に結びつけるのかが具体的に示されており、榊氏の思考プロセスが手に取るように分かります。
さらに、「一休.com」で行われているデータドリブン施策の具体例として、データを駆使して「割引するほど利益が上がる」ビジネスモデルを実現している点にも驚かされます。
「DATA is BOSS」は、データドリブン経営を導入しようとしている企業やビジネスパーソンにとって、実践的なガイドとなる一冊です。データを活用して事業を成長させたいと考える経営者やリーダーに、視座と行動を変えるきっかけを提供してくれると思います。ぜひ一読をお薦めします。