2021年6月10日付、東芝は2020年7月31日開催の株主総会が公正に運営されたか否かに関連して、調査報告書(「会社法第316条2項に定める株式会社の業務及び財産の状況を調査する者による調査報告書受領のお知らせ」)を受領したことを発表しました。東芝の株主であるエフィッシモが問題としたことは次の二点です。
・議決権集計問題
本提示株主総会の前日までに議決権行使集計業務を委託している三井住友信託銀行株式会社に持ち込まれた議決権行使書1,139枚を有効な議決権として集計しないという不正な処理が行われてことが明らかにされている。さらに報道や議決権行使書等の閲覧謄写を行ったところによると、議決行使書の集計に関しては、これだけでは説明のつかない不自然な点が数多く存在している。
・圧力問題
一部の株主が圧力を受け議決権行使を行わなかったことや、議決権行使助言会社が圧力を受けたことについても報道がなされている。この点に関し、会社の主だった株主数十社に質問をおこなったところ、実際に、圧力により議決権行使を行うことを断念した株主が存在していることが確認された。
「議決権集計問題」は、議決権行使期限内に到達した議決権行使書を、翌日に届くものとして無効と扱った処理(先付処理)のことです。この先付処理については、三井住友信託銀行はすでに不適切であったと認めています(2020年12月17日「議決権行使書集計業務の見直し及び再発防止策等について」)これは議決権行使という株主の権利を侵害するものです。この点において、報告書は「議決権集計は不適法かつ不公正であったものの、東芝の認識や関与は認められなかった」としていいます。また、この先付処理以外には、不適法あるいは不公正な点は認められなかったと結論づけています。
「圧力問題」に関しては、東芝は経産省といわば一体となってエフィッシモの株主提案権の行使を妨げようと画策し、3Dインベストメント・パートナーズの議決権行使の内容に不当な影響を与えようと画策し、さらには、米ハーバード大学基金運用ファンドについてはその議決権全てを行使しないようにする交渉をM氏(当時経産省参与)に対して事実上依頼したことが記されています。その結果、米ハーバード大学基金運用ファンドは議決権全てを行使しませんでした。報告書では「本定時株主総会が公正に運営されたものとはいえない」と結論づけています。
調査報告書を執筆した弁護士らは、東芝関係者へのヒアリングや「デジタル・フォレンジック調査」と呼ばれる方法で独立した立場から調査を行っています。デジタル・フォレンジック調査とはメールサーバーから電子データの処理・解析を行うもので、今回約52万件の電子メールと、約25万件の添付ファイルを分析しています。驚くべきは、調査報告書には、東芝と経産省との生々しいやり取りがまるでビジネス小説のように詳細に記されていることです。まさにそこには東芝と経産省とのなれ合いが明らかにされているのです。
報告書の結びには、監査員会の機能不全が原因の一端であると記されています。報告書にはこうあります。
「監査委員会は、アクティビスト排除に向けた経産省との不適切な協働関係の存在を窺わせる内容を含むと考えられる報告書の本文や特にメールそのものを閲読していても、また、外国籍取締役が東芝と経産省との密接な関係に驚嘆の声を上げてもそれは当然のことであって外国人にはわからない、東芝のような企業は経産省とうまくやっていかなければならない(から経産省に忖度してそのような事実は外にできるだけ出さない)という姿勢が太田氏(監査役委員会委員長)のヒヤリングでも窺われた(社外取締役の古田氏からも経産省とうまくやる必要が東芝のような企業ではあるのだというコメントがあった)。東芝は、社外取締役過半数の取締役会を有する委員会設置会社であって、コーポレートガバナンスの最も進んだ会社であると外からは見えるが、社外取締役の認識ないし意識にこのような傾向が強すぎるようであっては、せっかくの立派な器も十分に機能することが難しいものと考えられる」
東芝は、2021年6月13日付「調査報告書を受けた当社の対応等について」をリリースしました。社外取締役で監査役委員会委員長の太田氏や社外取締役の古田氏らの退任が発表されました。日本企業のコーポレートガバナンスの確立を主導してきたのが経産省です。その経産省が一民間企業と結託して株主の権利を侵害するようなことを行っているのです。今回のことは、何も東芝固有の問題ではなく、日本企業のコーポレートガバナンスのあり方が問われているのだという認識が必要でしょう。