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漂流する日本企業

日本企業は、「どこで、なにを、間違え、迷走したのか?」この本は、1991年のバブルの崩壊に始まる、いわゆる「失われた30年」の日本企業を姿を描いています。その分析の結論こそがこの本のタイトル「漂流する日本企業」です。本の序章にはショッキングな数字が掲載されています。日本の大企業(資本金10億円以上の企業)の設備投資はこの20年は20兆円前後で停滞しています。一方で、配当がうなぎ上りに増加し、20年間で約7倍となり、2021年にはついに戦後初めて配当が設備投資より大きな金額になってしまっているのです(下図)。


出所:法人企業統計調査

「失われた30年」の間、ほとんど成長せず、生産性も上がらなかった日本の大企業の実態が多くの統計データをもとに示されていきます。過剰に抑制された投資は、設備投資だけではなく、海外展開投資や人材投資も同様です。投資という成長に必要なものを抑制し、それを配当にまわしてきたのがまさに日本の大企業の実態と言えるのです。著者は、株式市場からの「糾弾」を避けるために配当を増やしていった日本の大企業と結論づけています。

多くの日本の大企業が株主傾斜と投資抑制・配当重視の負のサイクルに入ってしまったのはなぜなのか。ある大企業でIR担当してきた人物の証言を紹介しています。その人物は、経営者の行動の背後の2つの要因を指摘しています。ひとつは、「外面のよさをつくりたくなる、いわば見栄」。もうひとつは、「自分たちの原理への自信のなさ」です。

「アナリストや株主(特に海外)は、その時々の自らにとって利益になると思われる要求を、時に無遠慮に突きつけてくる。その要求に対し、本来は自社にとっての利害を優先した観点で反論すべきだが、経営者は反論をそこそこに飲み込む場合が多い。そこには、その時々の経営に関するグローバルスタンダードに則っていないと格好悪い、認めてもらえない、という気分があるようだ」
それをその人物は、外面の良さをつくりたくなる、一種の「見栄」だと言っているのです。

経営者の自信のなさについては、
「日本企業はこれまで多くの危機を乗り越えてきた。戦後の大混乱から始まり、オイルショックや超円高、最近ではリーマンショックや東日本大震災というような危機を乗り越えてきた。その経営は対外的に誇るべきものとして発信しうるはずだが、そうはできていない。自分たちの経営に対する深い原理的理解が不十分である一方で、欧米に対する憧れや引け目のようなものがあり、日本独自の経営の原理に対する『自信のなさ』につながっている」

この発言は、まさに著書の現場観察の感覚と同じであると述べています。では、これからの日本企業はどうすればいいのか。著者は戦後の日本の大企業の実態であった「従業員主権第一、株主主権第一」という経営に立ち返るべきだとしています。もちろん、株式会社ですから、法律的な主権は株主にあります。ただ、「会社は実質的には従業員のもの」と考えるの従業員主権第一の考え方です。

そして、この従業員主権第一の経営を実践している企業として、本書はキーエンスとトヨタ自動車を取り上げています。原理原則にこだわり続けるキーエンスの経営を詳しく分析することによって、今後の日本の大企業の経営者がとるべき方向性も明らかになっています。この「漂流する日本企業」という著書を通して、私たちは日本企業の「失われた30年」の迷走とその背景を振り返ることができます。株主傾斜、投資抑制、そして「見栄」と「自信のなさ」に苦しむ経営者の姿も浮かび上がりました。

しかし、キーエンスやトヨタ自動車のような企業が示す「従業員主権第一」の経営哲学は、日本企業にとって新たな道標となり得ます。これらの企業は原理原則に基づく経営を実践し、成功を収めています。日本企業が再び世界の舞台で輝くためには、従来の経営方針を見直し、自信を持って独自の経営原理に立ち返る必要があります。今こそ、日本企業は変革の時を迎えています。日本企業の「漂流」は終わり、新たな航路へと舵を切る時が来たのです。

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