2020年12月5日付日経新聞によれば、役員報酬をESG(環境・社会・企業統治)に連動させる企業が増えているといいます。二酸化炭素(CO2)排出削減や従業員の多様性などの達成度合いで役員報酬額が変わる仕組みで、米国で主要企業の半数、日本で日経500種平均株価の構成企業の1割弱が導入しました。
ESG投資の隆盛も相まって、企業が事業活動を通じて社会課題解決に貢献すること(社会価値の創出)がより一層求められているといえます。このことから、世界の投資家がお金よりも社会や環境を大事に考える慈善家になったと考えるのは早計です。投資家は単に企業が社会課題解決に貢献することが中長期的な企業価値向上に寄与すると考えているだけです。
企業は社会課題解決を企業の経済活動(経済価値の創出)と相反するものと捉えたり、社会価値創出を単なる社会貢献活動の延長線上にあるもの考えるべきではありません。ところが日本企業の経営者は経済価値と社会価値創出を全く別のものと捉えているとうかがえる調査結果があります。デロイトトーマツは、19カ国において2,029人の企業経営者を対象に、第四次産業革命に対する意識調査を行いました。ちなみに日本の調査対象者は146人です。
出所:デロイトトーマツ「第四次産業革命における世界の経営者の意識調査(2020年版)」(一部抜粋)
様々な質問とそれに対する回答があるのですが、注目すべきは「社会課題解決の取り組みに注力する理由」に対する回答です(上図)。グローバル全体で最も多くの回答を集めた「収益の創出」(42%)が、日本の経営者からの回答は1%と極端に低いレベルにとどまっていることです。このことは、日本の経営者は、社会課題解決と収益の創出を分けて考えており、一体で考えるという意識が低いことを示しています。経済価値と社会価値創出との間には大きな溝があるとも言えます。
今までに何度か言っていることですが、大切なことなので繰り返します。ESGや社会課題の解決を企業戦略と切り離して論じてもらっては困ります。ESGや社会課題解決の目的は「中長期的な企業価値の向上」だからです。あくまでも本業を通じて環境や社会に良い影響を及ぼすことができ、ガバナンスがしっかりしているような企業こそが中長期的に成長し、結果的に企業価値が高められるはずだという信念が底流にあることを忘れてはなりません。