NTTがNTTドコモを完全子会社化します。NTTはドコモ株を66.2%保有しており、残り約34%の株式をTOB(株式公開買付)で取得します。買取総額は4.2兆円と日本国内企業のTOBとしては過去最大。ドコモ株の取得価格は1株3900円で、9月28日の終値に40%以上のプレミアムが上乗せされており、TOBで一般的な30%のプレミアムを上回っています。
この発表に先立つこと、NTTドコモは、別の事件の渦中にいました。2011年から展開する電子決済サービス「ドコモ口座」を悪用されて不正な預金引き出しを許してしまったのです。ドコモのライバルであるKDDIが手掛ける決済サービス「au PAY」やソフトバンクの「PayPay」ではいずれも口座を取得する際にはSMSによる二段階認証を導入。PayPayなどは銀行口座と紐づける際にも顔認証などを駆使して悪用を防いでいるといいます。
今回の不正が広がったのは、ドコモ側に一方的な責任があるとしかいいようがありません。従来、ドコモ口座の開設はドコモの回線契約者であることが条件でした。ドコモユーザーであれば、契約時に本人確認もすることから、安全性はある程度担保されていたと言えます。ところが、2019年9月に他の通信回線の契約者でも口座を開設できるようにしたのです。いわゆる「キャリアフリーdアカウント」サービスの開始です。今回の不正のほとんどがこのドコモユーザー以外の契約者が開いた口座だったといいますから、言い逃れはできません。
それでも、ドコモは日本一の携帯キャリアであることは変わりはありません。なぜ、こんなセキュリティ対策そっちのけのお粗末なサービスを提供したのでしょうか。電気通信事業者協会によれば、2020年6月時点の契約件数シェアは、ドコモ43.9%、au32.8%、ソフトバンク23.8%です。過半数を割り込んでいるものの、他の2社との差は歴然です。ところが企業業績となると話は違ってきます。2020年3月期の3社の主要な財務データは次の通りです。
出典:各社有価証券報告書
驚くべきことは、大手3社の寡占状態になってはじめて、ソフトバンクがドコモを売上高、営業利益ともに抜いてしまったのです。さらにKDDIとソフトバンクは前期比増収増益なのに対して、ドコモは売上高は前期比-3.9%の減収、営業利益は前期比-15.7%の減収減益となっているのです。そして、2021年3月期もこの序列は変わらないことが見込まれています。ドコモの営業利益予想8800億円に対して、KDDIは1兆300億円、ソフトバンクは9200億円を見込んでいるからです。
こうした業績面もさることながら、金融や決済をはじめとした非通信分野で、KDDIとソフトバンクに出遅れていたドコモの焦りが今回の騒動につながったと言えるかも知れません。さらに政府は携帯電話料金の値下げを求めています。菅氏は首相になる前から約40%の引き下げを求めていました。NTTの筆頭株主は33.93%を持つ財務大臣です。NTTの完全子会社化することでこれまで以上に政府からの要望に応える必要が出てくるかもしれません。今後、政府からの要望にNTTがどう答えていくのか、またそれを見てKDDIとソフトバンクがどう対抗してくるのか、今後も注視が必要です。