「超一流アナリストの技法」を読む

週末に「超一流アナリストの技法」を読了。著者の野崎氏は国内外のアナリストランキングで10年以上連続1位のトップアナリストです。

ビジネスパーソンに必要なスキルだけではなく、心構えを含めて後進に伝えようという著者の思いやりあふれる本だと思いました。副題にある通り、思考法からバリュエーションまでトップアナリストの暗黙知を我々にシェアしてくれています。

バリュエーションのパートでは、財務分析や証券分析の勘所を惜しみなく教えてくれています。私が興味を持ったのは、株主資本コストの推計手法です。

拙著「ざっくり分かるファイナンス」では、リスクフリーレートを2%、マーケットリスクプレミアムを5%として、CAPM(資本資産評価モデル)を利用して株主資本コストを算出していました。

最近ではマーケットのボラティリティが高まっていることから、過去の株価から算定されるβがその説得力を失っているわけです。私自身、株主資本コストの推計手法としてのCAPM理論に懐疑的になっていたのです。

株主資本コストとして、野崎氏が良く活用していたのが、「益利回り」だと言います。益利回りというのは、PERの逆数になります。PERとは、Price Earnings Ratioの頭文字をとったもので、以下のような定義となっています。

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当期純利益の何倍の株式時価総額がついているのかを示すもので、当該株式が割安か割高かを判断する人気のある指標です。

分母と分子を発行済株式数で割れば、1株当たりの利益(EPS)の何倍の株価(P)がついているのかを表すことになります。ちなみに、EPSは、Earnings Per Shareの略称です。

それでは、このPERの逆数がなぜ株主資本コストの代替となり得るのでしょうか。株価(P)は以下のように定義できます。

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この式は成長型永久債の現在価値の公式と同じ形をしています。EPSは株主に帰属するものですから、割引率であるrは、株主資本コストになります。gは当期純利益の成長率です。

ここで、利益成長率gをゼロとおけば、株価(P)は、下記の通り、EPSを株主資本コスト(r)で割ったものとなります。式を変形すれば、株主資本コストがPERの逆数(益利回り)であることがわかります。

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この益利回りについて、野崎氏の説明を引用させていただきましょう。


この益利回りは、利益成長について前提を置きにくい場合に有用で、利益成長をゼロとしたときの市場の期待収益率を示すものになります。つまり、現在の収益状況と株価水準から逆算される資本コスト(株主資本コスト)です。

この点に関しては、異論をもつ方も少なからずいらっしゃるとは思いますが、個人的な経験では、バイアスがかかりがちな「マーケットリスクプレミアム」や「ベータ」を用いるよりは便利だと思います。

出典:「超一流アナリストの技法」P164 但し、括弧内石野追記


野崎氏は、株主資本コストは原則としてこの益利回りを使用するというものの、他にも独自の株主資本コストの考え方を披露してくれています。正解がない分野だからこそ、実務家にとって考え方、モデル化のヒントが欲しいわけです。その要望に本書は十分に応えてくれます。

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