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東芝のキャッシュは嘘つかない

2015年、日本を代表する企業のひとつである東芝で粉飾事件が発生しました。2015年3月期の決算は、同年9月に過年度の決算修正と合わせ、やっと公表されました。

粉飾はかなり以前からあったようで2014年度は第三四半期までですが、およそ7年にわたって修正しています。東芝の開示資料「過年度決算の修正、2014年度決算の概要及び第176期有価証券報告書の提出ならびに再発防止策の骨子等についてのお知らせ」によれば、下図にある通り、7年間で税前利益を2,248億円粉飾していることがわかります。

2015年7月に発表された第三者委員会の調査報告書によれば、そのうち477億円が工事進行基準の操作によるものとしています。

工事進行基準とはなんでしょうか。これは、売上高を計上する(帳簿にのっける)ルールのことです。プラントや発電所などの建設工事などは、昔は工事完成基準が適用されていました。つまり、実際に工事が完成し、発注者に引き渡しが完了した時点で売上高を計上するという方法です。

非常に保守的な会計処理です。ただ、建設工事完了までに3年かかる工事の場合、建設期間中の3年もの間、売上高が全く計上されないわけです。これでは企業の活動状況とあまりにも乖離しているという意見が出てきました。

そうした背景もあり、2007年、企業会計基準委員会より原則として工事契約については工事進行基準の適用を優先するという会計基準が公表されました。

工事進行基準というのは、工事の進捗度に応じて、売上高を計上というルールです。進捗度をどのようにとらえるかという方法はいくつかありますが、多くの企業は原価比例法を採用しています。

原価比例法とは、見積工事原価総額に対する決算日時点での累計工事原価発生額の割合を工事進捗度とするというものです。

たとえば、あるプラント建設のプロジェクトの売上が500億円、工事原価が400億円だと見積もれるとしましょう。予定通り行けば、利益は100億円となるプロジェクトです。

決算日を迎えたときに、このプロジェクトの工事原価の実際の支払額が100億円だとしましょう。そうなると工事進捗は、25%(=100億円/400億円)となります。したがって、売上高は、25%の工事進捗相当分である125億円(=500億円×25%)となるのです。

当然のことながら、125億円の代金をお客さんからもらったわけではありません。キャッシュが、125億円増えたわけではありません。

工事原価の見積もりというものは社内で実施されることから、これが過少に見積もりされる場合、工事進捗度が過大となり、そして売上高が過大に計上されることになるのです。このように、利益というのは、あるルールに基づいた実態のない抽象概念であり、恣意性が入り込む余地があるわけです。「利益は意見である」と言われる所以です。

一方で、「キャッシュはうそつかない」といいますが本当でしょうか。実はキャッシュ残高を粉飾するのは非常に困難です。なぜなら、監査法人は帳簿の現預金残高と銀行預金口座残高を突合するからです。

東芝の過去10年のキャッシュフローを見てみましょう。足元の2016年3月期では、営業CFは▲1,230百万円となっています。営業CFがマイナスというのは、成熟ステージにある東芝にとっては危機的状況です。投資CFがプラスになっているのは、6,384億円で東芝メディカルシステムズの株式を売却しているからです。これがなかったら、FCF(=営業CF+投資CF)は、マイナスです。

 

過去10年で、FCFが5期マイナスです。特筆すべきは、2007年3月期から2009年3月期まで、FCFが3期連続マイナスであるということです。これは営業活動に結びつくような投資活動が出来てないということを物語っています。非常に厳しい状況です。まさにこのころから、東芝の粉飾が始まったのです。

その後も、2,000億円から3,000億円の投資活動を行っているものの、2007年3月期の5,600億円というレベルの営業CFを稼ぐに至っていません。この辺りに東芝の苦しさが如実に表れているわけです。

7年間で2,248億円もの税前利益をかさ上げした東芝でさえも、キャッシュでは嘘つくことが出来なかったということでしょう。

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