「増補改訂版 道具としてのファイナンス」の予約が開始されました!「道具としてのファイナンス」が最初に刊行したのは、2005年7月ですからちょうど17年前になります。自分で改めて読んでみると、「本当にいい本だなぁ」(自画自賛ですみません)と思う半面、言葉足らずで「これでは何を言っているのか、分からない」という部分が多く目につきました。これは、17年間で私のファイナンスの理解が進んだこともあるのでしょう。
恥ずかしい話ですが、道具を書いた当時は、IRR(内部収益率)で私が理解していたのは「NPVがゼロになる割引率」ということだけでした。それが何を意味するのか、人に説明できるほどに腹落ちした理解ができていませんでした。また、「IRR(内部収益率)の再投資の隠れた前提」は本の中で言及しているものの、自分でも意味が分かっていませんでした。
正直に言いましょう。「フリーキャッシュフローの定義で運転資金の増加額をマイナスする理由」が感覚的にしか分かっていませんでした。また、EV(Enterprise Value)は企業価値だと思っていましたし、そう書いてあります。ブログ「EV(=Enterprise Value)は企業価値ではない」の最後に「EV=企業価値と考えている人が多いので注意して下さい。」と書いていますが、それは私だったのです。レバードベータとアンレバードベータの変換式についての私の中途半端な理解についてはすでに告白した通りです(ブログ「ごめんなさい、私、間違ってました!」)
とまぁ、すぐ思いつくだけでもこれだけあるんです。本当に読者の方々には失礼なことです。申し訳ございません。ということで今回の増補改訂版では、全面的に見直しを行い、私の言葉足らずな説明、誤った理解につながりそうな説明を書き直し、より分かりやすい内容にしました。もちろん、難しい数式は極力さけてExcelにお任せするという基本コンセプトは変えていません。主な追加点は次の通りです。
【第1章 投資に関する理論】で追加しているのは、IRR(内部収益率)の本質的な意味合い、再投資の隠れた前提、MIRR関数の提案などです。
【第2章 証券投資に関する理論】では、接点ポートフォリオと市場ポートフォリオとの関係や、ベータをより感覚的に理解できるような説明、資本市場線と証券市場線との関係などを追加で説明しています。
【第3章 企業価値評価】では、類似企業比較法(マルチプル法)の具体事例などを追加しました。EV/EBITDA倍率のEVはもちろん修正してあります。
【第4章 企業の最適資本構成と配当・自己株式取得】では、MMの第1命題までしか説明できていませんでしたが、第2命題を追加しています。「資本コストがデット(有利子負債)の利用で下がるのは、コストの低い負債コストの割合が増えるからだ」と思っている実務家が多いので、この辺りの説明を厚くしています。
【第5章 資本市場に関する理論】では、債券の価格変動リスクに関するトピックでデュレーションを追加しました。これは私がビジネススクールでもよく理解できなかったところです。日産でも財務担当者として実務で使わなかったこともあり、省いていたところですが、本来はカバーしておくべきトピックです。
【第6章 デリバティブの理論と実践的知識】では、クロスボーダーの投資評価において為替レートはどう考えるのか、グローバルCAPMやカントリーリスクプレミアムの算定などを追加しています。オプション価格の算定に関しては、二項モデルによる評価(リスク中立確率)も追加しています。
【第7章 経営の自由度の価値評価】この章が新たに追加された部分です。今回の目玉とも言える章です。NPV法では捉えることができないのが経営の自由度の価値です。その評価方法を二つ説明しています。ディシジョンツリー分析法とリアルオプション法です。従来はリアルオプションの評価についてはブラック=ショールズ・モデルのみ説明していましたが、今回は二項モデルによる評価も追加しています。
現在、原稿を校正中なので少し章立てが変更になるかもしれません。米国の某有名ビジネススクールの卒業生から1年目のファイナンスの授業は「道具としてのファイナンス」だけで乗り切ったという御礼のメールが届いたこともあります。ファイナンスと言えば「道具」と言われたロングセラーの改訂版です。ぜひ、お買い求めください。よろしくお願いします。