2021年5月26日、アステラス製薬は、2022年3月期から2026年3月期までの「経営計画2021」を発表しました。計画の中で、2026年3月期には株式時価総額7兆円以上を目指すという野心的な目標を掲げました。アステラスの時価総額は現在、約3.3兆円です。なんと2倍を超える目標ですから驚きです。株価は短期的には業績以外の影響を受けます。企業が時価総額の目標値を中期経営計画に盛り込むのは非常に珍しいことだと言えます。
アステラス製薬の2021年3月期の売上高にあたる売上収益は1兆2495億円、本業の儲けを表すコア営業利益は2514億円(同率20.1%)です。売上収益は、26年3月期までに、21年3月期比で48%増の1兆8500億円、コア営業利益は、21年3月期比で2.2倍の5500億円まで引き上げる計画です。
では、アステラス製薬はどのように企業価値を高めようと考えているのでしょうか。以下の3つを達成することによって、時価総額7兆円を達成するとしています。
- 主力の抗がん剤の「イクスタンジ」(エンザルタミド)および重点戦略製品の売上収益を2026年3月期に1.2兆円以上にする
- パイプラインの価値を高めるべくフォーカスエリアプロジェクト(現在まだ早期段階のプロジェクト)からの売上収益を2031年3月期までに5000億円以上にする
- 2026年3月期のコア営業利益率30%以上をめざす
売上収益は2021年3月期から2026年3月期まで年平均成長率8%となるとしています。一方で、販売および一般管理費は、2021年3月期の対売上高比31%から21%に減少させる計画です。ただし、販管費は絶対額を維持します。研究開発費は同18%から19%とほぼ横ばいとして、将来の成長のためにフォーカスエリアプロジェクトへの潤沢な投資を確保します。その結果、コア営業利益率を同20%から30%になるとしています。
アステラス製薬に関して、最も注目すべきことは、2027年に訪れると見られるエンザルタミドの特許満了後に訪れるパテントクリフ(特許の崖)を乗り越えられるかです。その点について、同社は重点戦略製品がエンザルタミドの売上減少をオフセットし、2031年3月期に向けてフォーカスエリアプロジェクトが更なる成長ドライバーになるとしています。
ただ、アステラス製薬は、このような野心的な成長戦略を掲げる一方で、配当水準も大きく引き上げると発表しています。2016年3月期から毎期2円増配を続けてきましたが、22年3月期は前期比8円増に引き上げました。配当と成長はトレードオフの関係にあります。5年間で株主価値を2倍以上にしてみせるといいながら、足元で大幅に増配する。果たして、両方の実現は可能でしょうか。何か成長目的の株主にも安定配当目的の株主にも良い顔をしようとする中途半端な意図が透けてみえます。いずれにせよ、今後のアステラス製薬の動向に注目です。