ロシアは2月にウクライナへの軍事侵攻を開始しました。9月に入ってから、ウクライナ軍の反転攻勢を受け、ロシアは苦境に陥っているという報道が目立ち始めました。その後、プーチン大統領は9月21日に予備役の一部を動員する部分動員令に署名しました。2022年10月29日付日経新聞によれば、ロシアのショイグ国防相は10月28日、部分動員令にもとづく約30万人の予備役の招集の完了を報告したようです。
多くの死傷者を出した兵士の不足を補うために部分動員令に署名したプーチン大統領は「エスカレーション・オブ・コミットメント」の状況にあるといえます。これは、プロジェクトが失敗しているのにもかかわらず、経営資源を投入し続け傷口を広げる現象をいいます。
こうしたエスカレーションが生じる原因のひとつにサンクコスト・バイアスがあるでしょう。サンクコスト・バイアスとは、これまで投入してきたカネやヒトなどの経営資源をもったいないと思い、やめるという意思決定ができないことです。プーチン大統領の場合は、サンクコスト・バイアスというより、やめることができない理由がありそうです。やめること、つまりウクライナからの撤退は失敗を意味し、それはプーチン大統領自身の失脚(最悪の場合、自らの命を失う)につながるからです。
ここにきて、プーチン大統領は、停戦交渉に応じる姿勢を見せ始めています。その条件は、ウクライナが、1.クリミアをロシア領と認めること、2.ルガンスク人民共和国、ドネツク人民共和国の独立を認めること、3.ザポリージャ州、ヘルソン州をロシア領と認めること、だと言われています。このような条件をゼレンスキー大統領がのむはずもありません。
設計の世界にはこんな言葉があるそうです。「本当に重大なミスは、すべて最初の日に起こる」私たちの手元にあるのは、紙に書かれた線にすぎないかもしれません。ところが、この設計図がすでに建築に使う材料を確定してしまっています。私たちの目にはまだ始まったばかりのように見えますが、実際はプロジェクトの半分以上が後戻りできないところまで来ているということです。
事程左様に、初期の決断はとても大切なのです。初期に正しい決断をする方が、後になって変更したり、誤りを修正したりするより、コストはかからないばかりか、簡単かもしれません。プーチン大統領が、ウクライナへの軍事進攻を始めてしまったときにすでに勝負はあったと言えるのではないでしょうか。「窮鼠猫を嚙む」という言葉もあります。いずれにせよ、どのような結末をむかえるのか、予断を許さない状況であることは確かです。
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