2019/5/31付日経新聞によれば、上場企業が取引先との関係維持などを目的とした政策保有株式の圧縮に動いているといいます。この動きは、2018年6月に改訂となった「コーポレートガバナンス・コード」の影響もあると思います。コードの中で以下のように明確に政策保有株式の縮減をうたっているのです。
【原則1-4.政策保有株式】
上場会社が政策保有株式として上場株式を保有する場合には、政策保有株式の縮減に関する方針・考え方など、 政策保有に関する方針を開示すべきである。また、毎年、取締役会で 、個別の政策保有株式について 、保有目的が適切か、保有に伴う便益やリスクが資本コストに見合っているか等を具体的に精査し、保有の適否を検証するとともに 、そうした検証の内容について開示すべきである。上場会社は、政策保有株式に係る議決権の行使について、適切な対応を確保するための具体的な基準を策定・開示し、その基準に沿った対応を行うべきである。
以前にブログ「カゴメの政策保有株式」で取り上げたカゴメは18年12月期にユニー・ファミリーマートホールディングスやダスキンなどの政策保有株を売却しています。「保有の意義が希薄と考えられる銘柄については、できる限り速やかに処分、縮減していく」(同社)方針で、前期末時点で政策保有株は45銘柄と1年前より7銘柄減らしています。
また、資生堂は2018年12月末の政策保有株式は29銘柄で、当期に4銘柄を全数、2銘柄を一部売却し、前期末の簿価から約21%削減したとしています。資生堂は定期的に株式の保有目的などを精査し、自社の想定する資本コスト(WACC)の4%と比較した投資効率などを勘案して保有を続けるかを決めています。
ではなぜ、政策保有株式の縮減が必要なのか。まずは「少数株主の保護」があげられるでしょう。政策保有株式は持ち合い株式とも言われます。いわゆる安定株主の存在は少数株主の立場からすれば、必ずしも利害が一致するとは限りません。例えば、モノ言わぬ株主(安定株主)は少々業績が悪化したところで経営者にうるさく言わないでしょう。お互い様だからです。
「少数株主の保護」はコーポレートガバナンス・コードの基本原則1に以下のようにうたわれています。「少数株主や外国人株主については、株主の権利の実質的な確保、権利行使に係る環境や実質的な平等性の確保に課題や懸念が生じやすい面があることから、十分に配慮を行うべきである。(一部抜粋)」
次に株主にとっての機会損失の発生を防ぐためです。その株式がそれ相応のリターンをあげていたとしても、株式投資であれば株主が自分で出来るわけです。その会社に投資をしているのは、自分には到底できない事業のプロとしての経営者に事業でリターンをあげて欲しいからです。株式投資のプロでない事業会社に運用を任せておく必要はありません。それだったら、とっとと株式を売却してカネを返して欲しいと思うのは当たり前でしょう。
カゴメや資生堂のように明確な意思を持って政策保有株式の縮減に取り組んでいる上場会社はまだ少ないかも知れませんが、この動きが広がっていくことを期待したいと思います。