伊藤忠商事の特定分野に依存しない「平均点経営」こそが景況感が悪化する局面では真価を発揮するのかもしれません。実際のところ、伊藤忠の2023年3月期の連結当期純利益は8000億円の見込みです。最高益だった前年と比較して2%の減少となりますが、7割超を生活関連やインフラ事業などの非資源で稼いでいます。まさに、事業ポートフォリオのリスク分散が奏功しているといえます。
中でも電力インフラ、船舶・航空、自動車、建設機械などを手がける機械カンパニーの当期純利益は2023年3月期に初めて1000億円の大台に乗る見込みです。機械カンパニーの躍進のきっかけは、2010年の投資基準の見直しにあると言われています。2010年9年14日付日経新聞の記事をご覧いただきましょう。
伊藤忠は新たに投資基準を導入した。現金収支をベースにし、従来、国別で設けていた投資基準に加え、資源やインフラ分野など、業種ごとに細かく基準を設定。資源分野の中でも石油など投資対象ごとにきめ細かく分類し、リスク把握を的確にする。一方、生活関連やインフラ事業など安定的な収益を生み出す事業に対しては過度のリターンを求めず、メリハリを付ける
投資対象が将来稼ぎ出す現金収支の現在の価値を算出し、投資金額と比べて投資の是非を判断する現在価値の算出に用いる「割引率」は従来、一律の基準に国ごとのリスクを踏まえた数値を上乗せして設定していた。8月以降に検討を始めた案件では、国別に加え事業ごとに細分化した基準を設定する
従来は一定の基準として設定した数値(8%)に加え、米国での投資ならば国別のレートとして数%を上乗せし、投資対象が資源でもインフラでも同基準で割引率を設定し投資判断していた
今後は事業別に資源や金融不動産なら高く、インフラならば低くなど事業リスクに見合う投資ハードルを設け、国別のリスクを入れて判断する。注力分野のインフラ投資がしやすくなるほか、資源関連で割高な投資を避ける狙いだ
NPV算出の際に使用するハードルレート(国別)は、2010年には約40の業種別に設定していましたが、2021年には、約70業種に細分化されました。伊藤忠の目論見通り、機械カンパニーでは海外での地熱や廃棄物による発電など「比較的ローリスク・ローリターンの事業で利益を積み上げられるようになった。結果的にカンパニーの事業規模が大きくなり、日立建機を手がけることができた(伊藤忠幹部談)」のです。
実は、伊藤忠のように業種ごとにハードルレートを設定している企業は上場企業でも少数派です。ハードルレートが業種毎になっていない場合、ローリスク・ローリターンの事業が却下される恐れがあります。また一方で、ハイリスクの事業は、ハイリターンが見込めなくても投資することになってしまいます。まさに新聞記事にある通り、割高な投資をしてしまう可能性があるのです。リスクに見合ったリターンを獲得し、企業価値を高めるためにも、事業ごとにハードルレートを設定すべきなのです。
※参考記事:2023年1月13日付日経新聞「注目銘柄2023(5)伊藤忠「平均点経営」の効用」
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