東京証券取引所(以下、東証)は2023年3月、プライムとスタンダードの2市場の上場企業約3300社に対して株価水準の引き上げに向けた具体策の開示・実行を要請しました。参考ホームページ:「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応等に関するお願いについて」
このときの「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」の主なポイントは次の3点でした。
・資本コストや株価を意識した経営を実践する観点から、まずは自社の資本コストや資本収益性を的確に把握し、その内容や市場評価に関して、取締役会で現状を分析・評価したうえで、改善に向けた計画を策定・開示し、その後も投資者との対話の中で取組みをアップデートしていく、といった一連の対応を継続的に実施していただくこと
・実施にあたっては、取締役会が定める経営の基本方針に基づき、経営層が主体となり、資本コストや資本収益性を十分に意識したうえで、持続的な成長の実現に向けた知財・無形資産創出につながる研究開発投資・人的資本への投資や設備投資、事業ポートフォリオの見直し等の取組みを推進することで、経営資源の適切な配分を実現していくことが期待されること
・なお、資本収益性の向上に向け、バランスシートが効果的に価値創造に寄与する内容となっているかを分析した結果、自社株買いや増配が有効な手段と考えられる場合もあるが、自社株買いや増配のみの対応や、一過性の対応を期待するものではなく、継続して資本コストを上回る資本収益性を達成し、持続的な成長を果たすための抜本的な取組みを期待すること
特に、私が注目したのは、株主還元ありきの一過性の対策に頼らず、持続的な成長を実現するための本質的な取り組みが強調されている点です。2024年1月より東証は株価改善の具体策を開示した企業のリストを公表開始しました。プライム市場では全体の約4割にあたる660社が具体策を開示しました。
今回、特に素晴らしいのは、資本コストや株価を意識した経営について投資家からの支持を得た取り組みの事例集を公表していることです。(参考資料:『投資者の視点を踏まえた「資本コストや株価を意識した経営」のポイントと事例』、「別紙事例集」)この事例集を作るにあたって、東証は、中長期の企業価値向上を重視する投資家を中心とした計90社超(国内約3割、海外約7割)の投資家と面談しています。その結果、投資家が企業に期待するポイントが押さえられていると、投資家が一定の評価をしている取組みを集めたものです。この事例集は読む価値があります。参考までに四国化成ホールディングス、荏原製作所の事例をご覧ください。
投資家がどの点を評価しているかも記されています。四国化成ホールディングスが、PL経営ではなく、BS経営に徹している経営姿勢がこういった資料からもわかるわけですね。本当に勉強になります。
荏原製作所は、セグメント別にROIC-WACCスプレッドを開示し、その拡大の具体的な施策まで開示しています。ROICツリーも分かりやすくていいですね。
東証のこうした施策は、日本企業に資本コストや株価に基づいた経営を促す重要なものだと思います。2023年3月の取り組み開始から、特にプライム市場の約4割の企業が具体策を開示したことは、他社にとっても刺激になるのではないでしょうか。公表された事例集からは、四国化成ホールディングスや荏原製作所のような企業の企業価値の向上につながる具体的な方法を学ぶことができます。また、この取り組みがもたらす最終的な影響は、日本企業による情報開示の質の向上に留まらず、グローバルな投資家コミュニティにおいて日本市場への信頼と関心を一層深めることにも寄与するでしょう。
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