ローランドディージー(DG)のブラザー工業による買収劇に関しては、ブログ「企業価値を脅かすディスシナジー」で取り上げました。そのローランドDGは2024年5月16日、TOBを通じたMBO(経営陣が参加する買収)が成立したと発表しました。臨時株主総会などの手続きを経て、上場廃止となる見込みです。
ローランドDGの2023年12月期の売上高は前年対比7%増の540億円、当期純利益は前年対比1%減の43億円でした。業績は堅調ですが、売上高のおよそ4割を占める低溶剤プリンターの需要が伸び悩んでいます。そのため、新たな需要開拓を目指し、株式の非公開化を機に事業構造の改革を加速する必要があります。
今回、ブラザー工業はローランドDGに対するTOB価格を引き上げないことを決定し、買収を断念しました。ブラザーの佐々木一郎社長は決算会見で、「買収提案はローランドDGのすべてのステークホルダーにとって有益なものであると今でも確信している」と強調しましたが、「根拠を欠く批判を繰り返す経営陣とは信頼関係を築くことはできない」と主張しました。
これに対し、ローランドDGは「事実誤認に基づく主張」と反論し、ディスシナジー(マイナス効果)の懸念を示しました。ローランドDGは、ブラザーの買収によって主要部品の供給元との関係悪化や品質・競争力の低下が生じる可能性を指摘し、2026年12月期には営業利益ベースで50億円の減益要因が生じる可能性があると試算しています。
お互いの主張が対立する中、ブラザー工業は日本で初めて「同意なき買収」に失敗したといえます。この「同意なき買収」を成功させるためには、何が必要だったのでしょうか。
まずは、ローランドDGが主張するディスシナジーに対して、懸念を払拭できる材料を具体的に提示する必要があったでしょう。また、ブラザー工業の戦略を明示し、その上でローランドDGがどのような役割を担うのか具体的に説明することも必要だったと思います。さらに、ブラザー工業が考えるシナジー効果を具体的に定量化し、ローランドDGのステークホルダーに示すべきでした。
ブラザー工業は、これらのアクションをとることで、「同意なき買収」を成功させる可能性が少しは高まったかもしれません。今後、同意なき買収が増加する中で、他社にとって貴重な教訓となるケースだと思います。
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