2018年6月に改訂されたコーポレートガバナンス・コードの中で初めて資本コストというファイナンスの専門用語が記載されました。企業は資本コストの概念を取り入れた経営をすべきであり、各社が自分たちの資本コストを算出することを課せられたといえます。
ところが実際のところ、全上場企業 3,700 社のうち資本コストを把握している企業は最大で 500 社程度、資本コストを自ら計算している企業は最大で 300 社程度と見積もられています。
ところで、資本コストがなぜにそこまで大切なのでしょうか。それは、資本コスト(WACC)を上回る投下資本利益率(ROIC)を稼ぐことができて初めて企業価値を高める経営ができていると言えるからです。上場企業の経営者が自社の資本コストに無関心だということは企業価値経営は単なるお題目に過ぎないと言われてもしょうがありません。
前置きが長くなりました。今回、ご紹介するのは「企業のための資本コスト試算マニュアル~CAPM 編 ver.1.0~」という素晴らしいレポートです。このレポートでは、どの企業でも費用をかけることなしに自社の株主資本コストが試算できるように具体的な手順が示されています。Excelシートの仕様までついていますので、一度Excelを作成してしまえば、下図のような試算も簡単にできてしまうのです。
出典:「企業のための資本コスト試算マニュアル~CAPM 編 ver.1.0~」
株主資本コストの試算の方法は、CAPM理論に基づいています。CAPMでは、リスクフリーレート、マーケット・リスクプレミアム、β(ベータ)が決まれば、簡単に株主資本コストを計算できることから、実務で最も使われています。ところが、計算結果が安定せず、その不安定性に対処する工夫が必要になってきます。まさに対処方法が提案されており、実務者にはとても有難いものとなっています。
リスクフリーレートは、10年国債利回りを使用するのが一般的です。ところが、このレポートでは、20年国債利回りを採用しています。その理由についてレポートを読んでのお楽しみとしますが、私自身もとても勉強になりました。一読をお薦めします。