2022年6月3日付日経新聞「自社株買い枠、倍の4.2兆円」によれば、日本の上場企業が自社株を買い入れる動きが急増しています。4~5月の2カ月間で企業が発表した2022年度の買い入れ枠は計4.2兆円となり、前年同期の約2倍になったそうです。日立製作所は8年ぶりに2000億円分の自社株買いを発表しています。
ちなみに一般的に「自社株買い」と呼ばれますが、会社法上では、「自己株式取得」です。同記事にはこうあります。
「自社株買いは市場に流通する株を減らすことで需給が改善し、自社株を消却すれば発行済み株式が減り1株当たり利益も高まる効果がある。」
確かに大規模な自社株買いを行えば、株式の流通量は減ることから、市場の需給が逼迫して、株価が高まる可能性はあります。ただ、これは一時的なものであって企業の業績が伴わなくては、短期間で適正な株価に戻ると考えられます。後半部分は二つの誤りがあります。
まずは、「自社株を消却すれば」とあります。企業に買い戻された株式は企業によっては、そのまま保有されることもあるし、消却されることもあります。企業が保有している自己株式は金庫株と呼ばれます。この金庫株には議決権と配当がありません。この金庫株は資産に計上するのではなく、株主資本の控除項目として計上されます。つまり、金庫株は、株式時価総額や1株当たり利益の計算の際には株式数に含めないのです。したがって、消却するか否かで「1株あたりの利益」変わることはありません。
また、二つ目の「自社株買いを行って、1株当たりの利益も高まる効果がある」とは必ずしも言えない、ブログ「自社株買いは1株当たり利益を高めるか」で説明した通りです。さらに、日経新聞の記事に、ソニーグループの吉田憲一郎会長兼社長のコメントが紹介されています。「資本効率の向上は市場との信頼関係を醸成するため、自社株買いは未来への投資だ」ここでの資本効率はROEを示すのでしょう。
自社株買いで果たしてROEが高まるのでしょうか。実は、自社株買いをしたからと言って、ROEが高まるとは限りません。次回は具体的な数字を使って説明したいと思います。