格付け会社S&Pグローバル・レーティング(以下、S&P)は、日産自動車の長期発行体格付けを「トリプルBマイナス」から1段階引き下げ、「ダブルBプラス」にしました。日産の格付けが「投機的水準」にまで低下するのは、2002年以来のこととなります。まさに、私が日産自動車財務部に入社したのが2002年でした。当時、財務部は格付けを「投資適格水準」に引き上げようと尽力していたことを思い出します。
S&Pが日産自動車の格付けを引き下げたのは、同社が20年に発表した事業構造改革計画「日産ネクスト」で示した年間生産能力を下回る販売台数の可能性があること、EBITDAマージンが同業他社に比べて見劣りすること、EV市場での一定の地位を確保するための成長投資の負担が重くなることです。
日産のグローバル販売台数は、17年度(18年3月期)をピークに右肩下がりの状況となっています(上図)。もちろん、販売台数減少の原因は、コロナ禍の影響や、最近では半導体の供給不足や中国のロックダウンの影響などで、日産だけのことではなく、自動車業界全体にいえることです。ただし、懸念されるのは、日産の市場占有率が6%台から4.9%にまで減少していることです。また、日産は22年度(23年3月期)の販売台数を3,400千台と見込んでおり、販売台数減少に歯止めがかかる様子はありません。
連結ベースの営業利益は、一見すると、21年度(22年3月期)はV字回復したように見えます(上図)。ただし、セグメント別の営業利益を見ると、自動車事業は3期連続で赤字であり、21年度も販売金融事業によって自動車事業の赤字をカバーしていることがわかります。
さらに、日産の自動車事業のフリーキャッシュフローは3期連続で赤字です。2022年度第3四半期決算発表によると、22年度(23年3月期)の自動車事業は営業利益、フリーキャッシュフローともに黒字になる見込みですが、困難な状況は続いています。
2023年1月30日、日産はルノーグループとのアライアンスを見直すと発表しました。今後は、相互に15%出資する形となり、ルノーグループは日産の株式28.4%をフランスの信託会社に信託します。日産には自社株買取の優先権があるものの、実際に買い取るのは困難が予想されます。自社株買取には約5,700億円が必要であり、手元現金を充当した場合、成長投資のための資金が不足し、世界のEV化の流れに乗り遅れる可能性があります。仮にデットで調達する場合は、財務体質の悪化や格付けのさらなる引き下げのリスクもあります。いずれにしても、日産の悩みはつきません。
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