年末年始に読んだ「CFOポリシー」はとても読み応えあるものでした。著者であるエーザイCFOの柳氏は、早稲田大学会計研究科の客員教授でもあります。本書は理論と実践が融合しており、まさに「世界の投資家の視座と企業価値創造」を意識したものになっています。
この本で特筆すべきは、非財務戦略として柳氏が独自に開発した「ROESGモデル」が詳細に説明されていることです。ROESGとは、ROEとESG(環境・社会・統治)の両立を啓蒙している一橋大学の伊藤邦雄先生の造語です。企業価値は財務価値(見える価値)と持続的な財務価値の基盤となる非財務資本(見えない価値:知的資本、人的資本、社会・関係資本、製造資本、自然資本)から構成されていると言えます。柳氏は潜在的なESGの価値を顕在化する「非財務戦略」を構築すべきとしています。
“The End of Accounting(邦題:会計の再生)”という衝撃的なタイトルの書籍にこうあります。「1950年代には市場の企業価値評価(時価総額)のうち約90%を損益計算書の利益と貸借対照表の株主資本で説明ができたが、2013年にはその数値が50%レベルにまで低下している」
さらに多数の実証研究が近年、会計上の価値よりも非財務資本の方が大きいことを証明しています。2019年9月17日付日経新聞によれば、米国S&P500社の時価総額のうち、非財務資本が生んだ価値の比率は40年間で17%から84%に増加していると言います。富の源泉は、機械や不動産などの有形資産から見えない非財務資本へと変化しているのです。
※参考ブログ「企業価値の8割が見えない資産」
こうした世界的潮流が非財務資本の価値、ひいてはESG投資ブームへの繋がっていると言えます。投資家サーベイによれば、世界の投資家のうち75%が「ESGとROEの価値関連性を説明して欲しい」と回答しています。その意味では著者の提言するROESGモデルがこれらの投資家たちの要請に応えるものになっているといえます。
ROESGモデルはエーザイの統合報告書2019においても下図のように開示されています。エーザイCFOの柳氏の「見えない価値を見える化」するという試みは素晴らしいものです。
出典:エーザイ 統合報告書2019
本書は日本企業の現在あるいは未来のCFOを目指す人はもちろんのこと、企業人であれば必ず読むべき1冊と言えます。