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ESGは企業価値を増やすのか

ESGとは、環境(Environment)社会(Social)ガバナンス(Governance)の頭文字です。ESGに積極的に取り組んでいる企業に投資をしていきましょうという、いわゆるESG投資の流れが加速しています。当然ながら、この流れに企業は対応していかなくてはなりません。

2022年5月30日付の日経新聞には「ESG投資、日本を去る日」と題する記事が掲載されました。欧州の開示規制強化によって、企業にESG関連の情報開示が必要になっています。ところが日本企業の対応が遅れており、このままだとESGマネーが日本株を素通りするリスクが浮上しているというのです。

「では情報開示を進めよう」という話しになりますが、ここで忘れてはならないのは、ESG投資の根底にあるのは「環境、社会、そしてガバナンスにきっちり取り組む企業は、中長期的に企業価値を創造できる」と投資家が考えていることです。企業価値を増やすには、簡単に言えば、フリーキャッシュフローを増やすこと、そして、資本コスト(WACC)を下げることです。ESGへの取り組みと企業価値向上はどう結びついているのでしょうか。

・フリーキャッシュフローの増加
環境と社会、そしてガバナンスに取り組むことは、まさに事業機会の創出、ひいてはフリーキャッシュフローの増加につながる可能性があります。例えば、大量生産、大量消費の時代からなんの疑問も感じずに続けてきた薄利多売のビジネスモデルの見直しにつながるかもしれません。今では、消費者側も「安くていいもの」だけでなく、多少高くても、「環境に配慮したもの」を評価するようになってきています。こうした環境、社会の変化をとらえた新しい製品やビジネスが生まれるかも知れません。また、社会からの高い評価やブランド価値の向上で顧客層も増えるかも知れません。また、ESGに対する積極的な取り組みによって優秀な人材をひきつけ、つなぎ止めることができるかもしれません。さらにこうしたESGへの取り組みが従業員のモチベーションを向上させ、生産性の向上につながるかもしれません。その結果としてフリーキャッシュフローの増加に結びつく可能性だってあるわけです。

・資本コスト(WACC)の低下
ESGに真摯に取り組んでおり、ESGと企業理念、企業戦略とが一貫したものとなっていることがわかれば、投資家のリスク認識は下がり、WACCは下がる可能性があります。企業戦略を立案する際には、「外部環境」と「内部資源」について分析するのが一般的です。外部環境は、従来は市場や顧客、競合他社の動向、政治、経済環境の動向をどう考えるかでした。今後は自然環境(気候変動、炭素排出、エネルギーなど)や社会(サプライチェーン全体の雇用環境などの問題など)が加わるということです。内部資源は、従来は自社の強みなどの競争優位性に関する分析でしたが、これに社会(従業員などの人的資本の活用、人財投資、ダイバーシティなど)やガバナンスへの対応などが加わるということです。いずれにせよ、大事なことは、ESGを企業理念や企業戦略と切り離して論じるべきではないということです。

ESGに関して、「ESGに積極的な企業は、もともと経営がしっかりしているから企業価値が増えるのは当たり前だ」という意見もあります。つまり、ESGに取り組むから、企業価値が高まるわけではないとする見方です。ESGの企業価値に与えるインパクトに関する研究はまだ始まったばかりです。まだ、その因果関係については流動的です。ただ、私たちは、ESGが今後のビジネスのルールになるという認識は持っておいた方がいいと思います。

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