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PX時代の到来か

経済産業省が東証一部上場企業を対象に実施したアンケート調査によると、事業ポートフォリオを年1回以上、定期的に検討しているのは全体の半数以下です。ほとんど検討していない企業も約2割あります。さらに、事業撤退・売却の基準がない企業が8割近くに上っています。

ところが状況は変わりつつあるかも知れません。2020年7月18日付日経新聞によれば、今年1~6月の子会社や事業の売却件数(発表日ベース)は139件と同期間では過去10年で最多だったといいます。そこには、コロナショックを契機に日本の上場企業が事業の選択と集中を急いでいる様子が垣間見えます。まさに、DX(デジタル・トランスフォーメーション)のみならず、PX(ポートフォリオ・トランスフォーメーション)の時代が到来するかも知れません。

2020年7月31日には、経済産業省が「事業再編実務指針~事業ポートフォリオと組織の変革に向けて~(事業再編ガイドライン)」を発表しました。このガイドラインは、2019年6月に策定した「グループ・ガバナンス・システムに関する実務指針」の議論を前提に、事業の切り出しを円滑に実行するための実務上の工夫など、ベストプラクティスを示しています。

事業ポートフォリオマネジメントを適切に行うために、事業の資本収益性と成長性を軸とした事業評価を行う必要があります。損益計算書の営業利益が黒字だからという理由だけで、事業を継続していいわけがありません。ここで、事業再編ガイドラインの「評価指標の設定の在り方」の一部を抜粋してみましょう。


事業ごとの資本収益性を測る指標として ROIC(投下資本利益率)を導入し、資本コストとの比較や競合他社との比較(ベンチマーク)を行うことが重要である。また、事業ごとに ROIC と資本コストを比較するためには、(i)まずは、ROICの算出のために、事業ごとに資産等の割付けを行い、(ii)その上で、資本コストの把握のために、事業セグメントごとの BS(連結ベース)を「ざっくり」でよいので整備することが求められる。

成長性を測る指標としては、市場全体の成長率等に加え、自社が当該事業を成長させられるかという観点から評価することが考えられる。これらの指標による評価に加えて、自社が「ベストオーナー」かどうかという視点や、他の事業とのシナジー等についても考慮することが考えられる。ただし、シナジーを考慮する際は、コスト等との比較分析も重要である。

出典:事業再編ガイドライン44ページ


資本収益性を測るには、事業セグメントごとのROICと資本コストを比較する必要があります。実務上、事業セグメントごとにBSをつくる際に議論になるのは、BSの右側(調達サイド)です。つまり、事業リスクに応じた資本構成(負債と株主資本の割合)をどうするかということです。ガイドラインには、こうあります。

「資本構成の決定について社内調整に時間が掛かる場合には、初めから精緻な事業セグメントごとの BS を整備しようとして行き詰ってしまわないように、まずは ROIC の算出のために最低限必要となる BS の左側の作成(資産等の割付け)から始めることも考えられる。」

それにしても、「ざっくり」でよいと言ってくれる経産省には、親しみを感じます。さらに、このガイドラインには、「事業セグメントごとの貸借対照表の作成方法と資本コストの算定方法」までついています。このガイドラインを活用し、持続的な成長に結びつける日本企業が増えることを願ってやみません。

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