前編では、ニデック(旧日本電産)の会計不正がなぜ起きたのか、その構造と3つの手口を整理しました。後編では、キャッシュフロー計算書に不正の兆候が出ていたのかをデータで検証しました。※「ニデック会計不正の教訓【前編】」「ニデック会計不正の教訓【後編】」
2026年9月30日、ニデックは発表を延期していた2026年3月期の決算を公表しました。非金融資産の減損損失は6,321億円、最終損益は5,646億円の赤字です。そして会計監査人のPwC Japan有限責任監査法人は、連結財務諸表について「意見不表明」としました。前日の9月29日には岸田光哉社長が辞任しています。
研修で「キャッシュは事実、利益は意見」とお伝えしてきた私にとって、監査人が意見を出せなかったことにとても驚きました。完結編では、今回公表された決算と修正再表示後の数字をもとに、前後編の答え合わせをします。
前編では、第三者委員会の報告書をもとに「減損の検討対象となるのれん及び固定資産は約2,500億円規模」とお伝えしました。当時示されていた約2,500億円は、主に車載事業で減損を検討する資産の規模でした。今回公表された減損損失は、家電・商業・産業用など、より広い事業に及んでいます。
理由の一つは、減損の対象が車載だけでなく、家電・商業・産業用などにも広がったことです。最大は家電産業(ACIM)の2,988億円でした。もう一つは、過去の決算の修正です。ニデックは2021年3月期から2025年3月期までの決算を修正再表示し、その派生影響として過年度に2,880億円の減損損失を計上しました。
この中には車載事業(AMEC)の2,042億円が含まれ、2023年3月期に遡って計上されています。当期の6,321億円と合わせると、約9,200億円になります(この合算は私の計算です)。
減損は、資産の帳簿価額と、その資産が将来生むキャッシュフローから計算した回収可能価額を比べて判断します。計画を楽観的に書けば、減損は先送りできます。しかし、資産の価値が戻るわけではありません。先送りされた損失は積み上がり、計画が通用しなくなった時点でまとめて表に出てきます。
前編で取り上げた手口1(失注済みの案件を売上計画に含め、約86億円の損失計上を逃れた事案)は、この先送りにあたります。会社自身も、減損の要因として「成長を示し続ける計画策定と投資を繰り返し事業評価の適正化が遅延」「過剰な設備投資の蓄積」を挙げています。
監査人の意見にも触れておきます。監査意見には、無限定適正意見・限定付適正意見・不適正意見・意見不表明の4種類があります。意見不表明は、判断に必要な十分かつ適切な監査証拠を得られず、その影響が財務諸表全体に広く及ぶ可能性があるため、監査意見を表明できないというものです。
PwCが挙げた根拠の中心は、不適切な会計処理に関与した、あるいは監査人に虚偽の説明をした役職員の一部が、今も財務報告プロセスで責任ある立場にいることです。そのため、修正が網羅的か、未発見の虚偽表示がないかを確かめられないとしています。数字の問題である以上に、数字を作る人の問題だということです。
ニデックは2025年3月期にも意見不表明を受け、2025年10月28日に東京証券取引所の特別注意銘柄に指定されています。指定から1年後の審査で内部管理体制に問題があると認められれば、原則として上場廃止になります。なお、決算短信の「継続企業の前提に関する注記」は該当事項なしです。意見不表明と資金繰りの問題は別の話なので、混同しないよう注意が必要です。
後編では、①2022年3月期の増益と営業CF急落の乖離、②2022年3月期・2023年3月期のFCF連続マイナス、③両期の設備投資が営業CFに匹敵する水準だったこと、という3つのシグナルを確認しました。もちろん、これらは追加検証を促すシグナルであり、不正や減損額を直接特定できるものではありません。
修正再表示後の数字を見ると、2022年3月期の営業利益は1,704億円から1,463億円へ、2023年3月期は899億円の黒字から1,353億円の赤字へと修正されています。シグナルが出ていた時期に、利益は実際には大きく減っていたことになります。会社が減損の要因に「過剰な設備投資の蓄積」を挙げたことも、シグナル③と符合します。
一方で、会社の資料には「修正再表示は不適切な会計処理の修正であり、キャッシュ・フローには影響しません」とあります。5年間の営業利益は累計で3,826億円減りましたが、キャッシュフローは変わっていません。5,646億円の最終赤字を出した2026年3月期も、営業CFは2,342億円の収入、FCFは980億円のプラスでした。減損など、当期の現金支出を伴わない費用が大きいためです。
今回の修正では、利益が大きく変わる一方、会社の説明によればキャッシュフローは変わりませんでした。利益には見積りや判断が含まれるため、キャッシュフローと照らし合わせて読むことが重要だと改めて感じます。
ただ、キャッシュフロー計算書も意見不表明の対象です。『キャッシュは事実、利益は意見』という言葉は、開示されたキャッシュの数字なら無条件に信頼できる、という意味ではありません。数字の動きと、その数字を作る仕組みの両方を見る必要があります。
※本稿は2026年10月3日時点の公表資料・報道に基づいています。東証の審査結果など、今後の動向により状況が変わる可能性があります。



