コーポレートガバナンスは、「企業統治」と訳されますが、私の元上司の松田千恵子氏は、著書「これならわかる コーポレートガバナンスの教科書」でこう説明しています。コーポレートガバナンスとは、「社長の暴走と逃走を防ぐ仕組み」である。
この「社長の暴走と逃走を防ぐ仕組み」が日本企業には十分に確立されていないことが、問題とされてきました。2020年12月5日付の日経新聞によれば、金融庁と東京証券取引所が2021年春に改訂する企業統治指針(コーポレートガバナンス・コード)の概要が発表されました。
・取締役の3分の1以上を社外の独立人材に。必要と考える場合は過半数に
・取締役のスキル一覧表「スキルマトリックス」の導入
・CEO候補者のリスト作成などで指名委員会の選解任機能向上
・女性や外国人、中途採用者の登用で数値目標の策定と達成状況の公表
見直しの柱は取締役会の機能強化です。取締役というとどんなイメージをお持ちでしょうか。役員とかエライ人みたいなイメージだと思います。取締役というのは、本来は社長を取り締まるのがその役目です。日本ではどうでしょうか。むしろ、取り締まられ役でしょう。なぜならば、社長の部下なのですから。
日本の場合、業務を執行する人とそれを監督する人(取締役)が明確になっていません。CEO(Chief Executive Officer)は最高経営責任者と訳されますがOfficer(執行者)です。これに対して、取締役はDirector(監督者)と明確に分かれています。
アメリカ企業の場合、ガバナンスがきっちりしているかはともかく、少なくとも取締役会の半数以上が社外取締役という決まりになっています。日本の場合、取締役会の議長も社長という企業も多く、社長の暴走と逃走を防ぎきれないのです。
企業統治指針は法的な強制力はありません。ただ、従わない場合は理由の説明が必要となります。投資家への説明責任が重い上場企業にとっては実質的な拘束力を持つと言えます。菅義偉首相は10月の所信表明演説で「コーポレートガバナンス改革は企業の価値を高める鍵となる」と述べてましたが、果たしてどうなることでしょうか。