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おかしな金庫株の使い道

企業が自社株買いで買い戻した株式はそのまま保有するか、消却されることになります。企業がそのまま保有した場合、その株式は金庫株と呼ばれます。金庫株には議決権と配当はありません。また、金庫株は資産に計上するのではなく、株主資本の控除項目として計上されます。つまり、金庫株は、株式時価総額や1株当たり利益(価値)の計算の際には株式数に含めないのです。

よくある勘違いは金庫株を消却すると株主還元につながるという議論です。金庫株を保有していると将来の株式の希薄化につながる可能性がある。消却すれば、その可能性が消えることになると考えるのでしょう。ただし、これは全くの間違いです。金庫株を消却したところで、企業が新株を発行すれば同じことです。つまり、消却しないで金庫株を売り出すのと(消却後に)新株を発行するのとでなんら違いはありません。むしろ、登録免許税などを考慮すれば、資金調達の際に金庫株を再放出(売り出し)した方がコスト面で有利です。企業からすれば、金庫株を消却するという経済的合理性はないということです。

2021年5月20日付日経新聞によれば、東証1部上場のアパレル会社、三共生興が環境保護に取り組む財団を新設し、金庫株180万株を割り当てる議案を株主総会に提出するようです。対価はなんと1株あたり1円。財団側は19日終値換算で9億円弱相当の株式を、180万円で購入できることになります。株割り当て後は財団が3%の株主となることから、一部の投資家から「アクティビストに対抗するための安定株主作りではないか」との声が出ていると報道されています。これに対して、三共興は「財団の狙いはSDGs(持続可能な開発目標)の達成で安定株主作りではない」と言っています。

そもそも、180万株の金庫株の再放出によって9億円調達することができたはずです。それが180万円になったということは、明らかに既存の株主の価値を毀損していることになります。割り当てた株式からの配当が今後の財団の活動資金になるようです。SDGs(持続可能な開発目標)の達成などの社会課題解決はもちろん大切です。多くのグローバル企業の経営者は社会課題解決の目的を「収益の機会」と捉えています。一方で、今回の三共生興の取締役会で決議したことは、何か社会課題解決を企業の経済活動と切り離して考え、単なる社会貢献活動の延長線上にあるもの考えているようにも見受けられます。他の日本企業が追随しないことを願ってやみません。

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