日経新聞によれば、パナソニックは2023年3月期にも二酸化炭素(CO2)の削減など環境指標での評価を報酬に反映させる仕組みを導入するといいます。また、同社は、ICP(インターナルカーボンプライシング)の仕組みを導入し、さらなる環境投資促進につなげたいとしています。
ICPとは、低炭素投資、対策推進に向けて、企業内部で独自に設定、使用する炭素価格のことをいいます。パナソニックに先駆け、いちはやく役員報酬に環境価値を反映している日立製作所は、ICPを14000円/t-CO2に設定しています。同社は、ICPを従来の約3倍に引き上げています。このようにICPはあくまでも企業が独自に決定できるので、企業の低炭素への活動の強弱を柔軟に変えることができます。
では、そもそも炭素価格はどのように決定すればいいのでしょうか。環境省の「インターナルカーボンプライシング活用ガイドライン~企業の低炭素投資の推進に向けて~」によれば、1.外部価格の参照、2.同業他社のベンチマーク、3.過去の社内討議、4.CO2削減目標に基づいて分析、の4つがあります。ここでは、「過去の社内討議」から算出する方法を紹介しましょう。これは過去の投資案件に対して、投資の意思決定が逆転する(した)であろうICP価格を逆算するという方法です。
省エネの例ではEVとガソリン車のコストを比較しています(下図ご参照)。EVはガソリン車に対して2,000千円のコストデメリットがありますが、CO2の排出量はガソリン車に比べて減少します。2000千円のコスト増とCO2排出量の減少分から、ICPを逆算するわけです。ICPを280,000円/t-CO2に設定した場合、EVとガソリン車とではコストが差がなくなり、EVを導入しやすくなるというわけです。
出所:環境省「インターナルカーボンプライシング活用ガイドライン」
アステラス製薬では、社内に専門チームを設置のうえ価格を設定し、低炭素投資を推進しています。ICPは100,000円/t-CO2に設定しており、これをアステラス製薬(グローバル)全体での共通単価としています。同社では、CO2削減コストがICP以下になる場合、投資を実施すると判断しています。このように同社は、ICPを投資基準の参照値に使用しています。
出所:環境省「インターナルカーボンプライシング活用ガイドライン」
また、食品用紙容器の開発・製造を手掛けるTetra Pakは、投資回収の基準を超える投資はすべて炭素影響の推定値を算出しています。ICP分だけ見かけの収益を反映させることで低炭素投資が実行しやすくしているのです。
出所:環境省「インターナルカーボンプライシング活用ガイドライン」
ICPの導入よって、環境を優先した設備投資は今まで以上に促進されることでしょう。一方で、ICPは、価格設定、適用範囲にいたるまで全て企業が独自に設定することが可能です。それだけに、導入企業は、自社のICPの取り組みについて、株主をはじめとしたステークホルダー対して、説明責任があることは言うまでもありません。