ついに2025年7月25日にJUNGLIA/ジャングリアがオープンします。ジャングリアは、沖縄北部の豊かな自然と最先端テクノロジーを融合させた、新世代型テーマパークです。総事業費は約700億円規模。やんばるの森を舞台に、恐竜サファリやスカイフェニックスなどのアトラクションに加え、天然温泉スパや多彩なダイニングも展開する予定です。
このテーマパークの戦略的ビジョンとマーケティングを担当したのは、USJのV字回復を牽引した経験を持つ株式会社刀の代表取締役CEOの森岡毅氏です。来場者体験の設計から地域活性化プランまで、森岡氏独自の「刀メソッド」が随所に反映されていると言われています。
マーケティングの魔術師と言われる森岡毅氏は、USJのCMOとしてV字回復を牽引し、「ハリー・ポッター」エリアを大成功に導いた立役者。その後2017年に独立し、マーケティングのコンサルティング会社である刀を設立。沖縄テーマパーク構想はUSJ時代から温め続けた夢であり、何度もの頓挫を乗り越え、ついに現実のものとなろうとしています。
ジャングリアのプロジェクトは、総額約700億円もの規模です。外部キャッシュ(現金流入)と内部資本再編(自己資本調整)の2つの柱で支えられています。各項目の調達額・手段・使途をまとめたのが下の表です。
表を見ると、外部キャッシュ413億円はエクイティ出資とサステナビリティ・リンク・ローン(SLL)というデットファイナンスによるものです。一方、内部資本再編287億円はバランスシートを強化することによって、将来の資金調達や配当余力確保を意図したもので、キャッシュが流入したわけではありません。
次に今回の資金調達の目玉ともいえるサステナビリティ・リンク・ローン(SLL)について説明しましょう。これは、借り手があらかじめ定めたサステナビリティ・パフォーマンス・ターゲット(SPTs)──例えば温室効果ガス削減や地元雇用創出──を達成することで、支払金利が優遇される仕組みです。ジャングリアでは、年間入場者数や雇用者数をKPIに設定。開業から20年目までの達成度に応じて、支払金利の引き下げを目指します。
このSLLの国内における状況は、2019年に最初のSLL組成が確認され、その後2020年3月のガイドライン策定を契機に市場が急速に拡大しています。環境省のグリーンファイナンスポータルによると、SLLの組成件数は2021年に61件、2022年に240件(総額6,698億円)、さらに2023年には667件(総額7,111億円)と、取引規模・件数ともに増加しているのがわかります(2024年度には実行額は急減しています)。
SLLのメリットとデメリットを借り手(企業)の立場から考えてみましょう。SLLを活用する最大の魅力は、ESG(環境・社会・ガバナンス)目標の達成度に応じて金利が引き下げられる点です。しかも一般的なプロジェクトファイナンスと違い、設備投資から運転資金まで幅広く資金使途を設定できることがあります。加えて、「私たちは具体的なサステナビリティ目標に本気で取り組んでいます」というメッセージを投資家や顧客、社員に強力にアピールできるため、企業ブランディングの向上や中長期的な企業価値の押し上げにもつながります。
一方で、KPIの設定・モニタリング体制を整えるには社内リソースと外部専門家のコストがかさみがちです。さらに、万が一、目標を達成できなかった場合は当初想定より高い利率が適用されるリスクもあります。また、契約書もESG条項や第三者評価の要件が盛り込まれるぶん複雑になりがちで、時間を要する点もデメリットと言えます。
それでは、貸し手(金融機関)の立場から、このSLLをみてみましょう。金融機関側から見ると、SLLは新たなビジネス機会を創出しやすい商品です。顧客企業のESGニーズに応えることで既存取引を拡大できるだけでなく、自社のサステナブル・ファイナンス実績を強化できるメリットがあります。また、ESGに真摯に取り組む企業は中長期的に信用リスクが低減すると見なされるケースも多く、与信ポートフォリオの健全化につながる可能性もあります。
しかし、貸し出し後には借り手企業のKPI進捗を定期的にチェックし、外部評価結果を確認するなどのフォローアップが不可欠です。このモニタリング業務は従来の与信管理以上に負担が増えます。また、企業が虚偽や誇大なESG目標を設定して“グリーンウォッシュ”を図るリスクを見抜くための審査能力や内部統制も一段と強化しなければならず、運用には一定のコストと覚悟が求められます。
2023年度までのSSLの成長トレンドから2024年度には急激な落ち込みをみせています(上記のグラフ参照)これは、単なる成長の鈍化とは考えにくいほどの減少です。この背景にあるものについては、今後のブログで取り上げたいと思います。
いずれにせよ、ジャングリアは、「沖縄から日本の“未来”をつくる」という大いなるビジョンのもと、地域経済の活性化とエコツーリズムの新基準を打ち立てようとしています。多彩なパートナーと官民が一体となった壮大な挑戦は、単なるテーマパークの枠を超え、ESGを核に据えた資金調達の先駆例として注目を集めています。沖縄北部のテーマパークとなると、いろいろな意味でハードルが高いですが、持続可能な観光モデルの最前線をできるだけ早くに体験してみたいと思います。