企業が最適とは言えないまでも、妥当な現金残高水準を決定するためにとっている一般的なアプローチは2つあります。
ひとつは、業界のベンチマークや経験則に従うこと。2つめは、格付会社およびアナリストから得られるガイダンスを参考にするというものです。
1番目の業界内の比較可能な企業を対象にベンチマーキングを行うというアプローチは、業界平均水準が現金残高のあるべき水準だということが前提にあります。
また、同業他社と同じ水準にしておけば、少なくとも、現金残高が理由で他社に劣っていると市場から評価されないだろうという消極的な意味合いもあろうかと思います。
現金残高に関して、格付会社が提供する情報はそれほど多くはないのが実情です。とはいうものの、米国の例では、あるテクノロジー企業がA格付を取得するためには、負債総額を上回る現金残高が必要であると指摘されたケースもあります。
ここには、ビジネスリスクが高ければ、そうしたリスクを相殺するためのバッファーとして、多額の現金残高を確保しておかねばならないというロジックがあります。
しかし、残念ながら、現金残高の具体的な水準についての論理的根拠はまだ確立されていません。格付会社としても、現金残高に関するガイダンスを今後充実させていこうと考えているのは確かです。