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後出しの買収防衛策

買収防衛策を導入する日本企業の数は2008年をピークに減少傾向にあります。そうした中、東芝機械は、村上世彰氏が関与する企業からTOB(株式公開買い付け)の打診を受け、有事となったために、新たに有事型の買収防衛策を導入しました。

これを受けて、村上氏は日経新聞の取材に対して、こう発言しています。

暴挙以外の何物でもない。東芝機械は19年に株主の意思で買収防衛策を廃止したと考えている。株主意思の確認を経ない取締役会決議のみで新たな防衛策を発動できるなら、経営陣の保身を理由に大株主の保有割合を大幅に低下させることが可能になる。日本の資本市場や企業統治の発展のために断固阻止すべきだ。

東芝機械とは13通の書簡送付や5回の面談を通じ、内部留保の還元による株主価値や自己資本利益率(ROE)の向上を提案してきた。

村上氏はこちらの提案に対して経営陣が応じる姿勢がないと言っています。

一方、東芝機械の飯村幸生会長兼CEOは週刊ダイヤモンド誌の取材に対してこう述べています。

村上氏は「対話をしている」と言うが、あれは一方的な要求であって対話ではない。例えば、村上氏は「内部留保が多い」と言う。しかしうちがそれをどう使っているかには全然興味がない。

われわれは10年前にようやく有利子負債を減らし、まっとうなバランスシートに持ってきた。17年に東芝から自社株を買い取る必要があったので、そのためにキャッシュを厚くした経緯があります。

企業の成長はROEだけでは語れない。経営を安定させ、財務体質を強化することも成長戦略です。納期サイクルの長い大型機械を扱う当社にとって、手元キャッシュの重要性は高いのです。

この飯村氏の発言は日本の多くの上場会社の経営者の気持ちを代弁するものかも知れません。口ではROEは大切だと言いながらも、ROEを高める経営をしていません。安定経営のためといいながら、手元に現金を確保しておきたいという気持ちが強いのです。

企業がROEを高めるためには、分子の当期純利益を増やすか、分母の純資産を減らすかの二つの方法しかありません。飯村氏は「村上氏は内部留保をどう使うかに興味がない」と言っていますが、そんなことは決してないでしょう。内部留保(正確に言えば、手元現金)が当期純利益の増加、つまり成長につながっていないのが問題なのです。実際のところ、下図の通り、過去7年間の同社の売上高は横ばい、当期純利益率についても低位に推移しています。

出典:オントラック作成

もちろん、手元の現金を将来の成長につなげ、分子の当期純利益を増やすことになるのだという蓋然性の高いストーリーを株主に説明できていたとしたら、こんなことにはならなかったはずです。成長できないのであれば、自己株式の取得や配当などで投資家へ還元するべきでしょう。成長のために資金を確保しておきたいというのは詭弁です。必要になったときに資金調達すればいいからです。そのために上場しているわけです。

PBR(Price Book-Value Ratio、株価純資産倍率)の推移を見ていましょう。PBRとは株式時価総額が純資産の何倍かを表す指標です。株式時価総額と純資産の差はバランスシートにあらわれない目に見えない資産(のれん)と言えます。PBRは「のれん」の創造力ともいわれます。このPBRが1を下回る企業は存続するよりも、今解散した方がいいと考えられるのです。東芝機械は2018年3月期に1倍を超えているものの、長らく1を下回っているのがわかります。

出典:オントラック作成

さらにキャッシュフローをみると2019年3月期の営業キャッシュフローはマイナスとなっています。投資キャッシュフローの推移をみても、将来の成長のために積極的に投資を行っているようにも見受けられません。資金を積極的に新規事業や設備投資に使って業績を拡大することもしない。かといって、株主に還元することもせずに資金を余剰にため込んでいる経営者は決して企業の長期的な成長を望んでいるとは思えません。株主の利益を考えるなどと口ではいうものの、単なる自己保身と言われてもしょうがないでしょう。

出典:オントラック作成

先述したPBRのTOPIX銘柄の平均は1.1倍です。ドイツのCDAX銘柄では1.6倍、米国のNYSE銘柄に至っては2.2倍とTOPIX銘柄の2倍となっています。3,700社ある日本の上場企業のうち、約500社は保有する現預金と有価証券の価値だけで時価総額を上回っています。こんな割安に放置されている株がたくさんある国は他にありません。「おいしい日本株」に海外ファンドが熱い視線を送り始めたと聞きます。

日本の上場企業の経営者は、いま一度、以下の日本電産の永守氏の言葉をかみしめるべきでしょう。
買収防衛策は必要ない。私より優秀な経営者がいるのならいつでも替わる。企業の価値をあげてくれるなら喜んで売る

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