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『夢と金』は、子どもに渡す前に大人が読むべき本だった

西野亮廣さんの『夢と金』を読みました。

読むきっかけは、Amazonのレコメンドです。

ファイナンス・会計本オタクである私に、Amazonのアルゴリズムが「あなたはこの本も読むべきです」と差し出してきたのでしょう。アルゴリズムにまで性格を見抜かれているようで、少し悔しい気もしますが、実際、その推薦はかなり的確でした。

私は今でも、ファイナンスや会計に関する新刊が出ると、つい買ってしまいます。

もちろん、自分自身の理解を深めるためでもありますが、それ以上に、分かりやすい表現や、優れた例え話を常に探しているからです。ファイナンスや会計は、どうしても難しく見えがちな分野です。だからこそ、「この説明なら伝わる」「この例えなら腹落ちする」という表現に出会うと、つい嬉しくなってしまいます。

そんな中で読んだ『夢と金』は、正直に言って、非常に学ぶところの多い本でした。

特に印象に残ったのは、高価格帯の商品やVIP席に対する西野さんの見方です。

たとえば飛行機には、ファーストクラスやビジネスクラスがあります。これを単純に見ると、「お金持ちだけが優遇されている」と感じる人もいるかもしれません。

しかし、西野さんの説明は違います。

高いお金を払える人に、きちんと高いお金を払ってもらう。そうすることで、エコノミー席の価格を抑えることができる。つまり、高価格帯の商品は、必ずしも弱者を排除するものではなく、むしろ低価格帯の商品を支える役割を果たすことがある、というわけです。

これはコンサートやイベントでも同じです。

VIP席を設けることで、一般席の価格を下げることができる。高く払いたい人、高く払える人にしっかり払ってもらうことが、結果として、安く参加したい人を救うことになる。

これはまさに価格設計の話です。

ファイナンスや会計の言葉で言えば、お客さんごとに「いくらまでなら払ってもいい」と感じているのかを見極め、全体の収益構造をどう設計するか、という話になります。単に「高い席を作るのはけしからん」という感情論で終わらせてしまうと、見えなくなるものがあります。

むしろ、すべての人に同じ価格を求めることが、本当に公平なのか。

そこを考えさせられました。

もう一つ、強く印象に残ったのが、「プレミアム」と「ラグジュアリー」の違いです。

高価格の商品を作ると言うと、多くの人は「機能」を高めようとします。より速い、より丈夫、より便利、より高性能。たしかにそれはプレミアム商品にはなります。

しかし、「機能」で勝負する限り、どうしても競合が生まれます。

競合が生まれれば、比較されます。比較されれば、「機能」に対して、価格が「高い」「安い」という判断をされます。

一方で、ラグジュアリーは「機能」ではなく、「意味」を売るものです。

「意味」には競合がありません。競合がなければ、相場もありません。相場がなければ、価格を決める主導権はこちら側にあります。

これは非常に重要な視点です。

もちろん、西野さんの事例は、西野さんという強い個人ブランドや、コミュニティ、発信力があってこそ成り立っている面があります。そこをそのまま誰もが真似できるわけではありません。

しかし、大事なのは事例をそのままコピーすることではありません。

その奥にある原理を読み取ることです。

自分の仕事で言えば、ファイナンスや会計を単なる「知識」や「計算スキル」として提供していれば、当然ながら他の講座や本と比較されます。価格も比較されます。

しかし、それが「経営判断の精度を上げるための道具」であり、「自分の頭で事業を考えるための言語」であり、「社内で意思決定を前に進めるための共通基盤」だとすれば、そこには単なる「機能」を超えた「意味」が生まれます。

本書を読みながら、私自身も、自分の仕事を「機能」として語りすぎているのかもしれないと思いました。

そして、この本で私が最も勉強になったのは、実は番外編に書かれている「お金のいろは」の部分です。

西野さんは、お金の使い方を大きく5つに分けています。

消費、浪費、投資、投機、貯金です。

消費は、日常生活を続けるためにお金を使うこと。浪費は、必要以上の贅沢にお金を使うこと。投資は、未来の自分のためにお金を使うこと。投機は、価格の上げ下げを予測して売買すること。貯金は、お金を貯めることです。

ここで西野さんは、日本の子どもたちが実際に触れるのは、多くの場合、「浪費」と「貯金」だけだと言います。

これは耳の痛い指摘でした。

消費は親が背負ってくれます。投資や投機については、親も先生もほとんど教えてくれません。結果として、子どもたちは「無駄遣いをしないこと」と「お金を貯めること」だけを教わることになります。

しかし、物価が上がっていく時代においては、ただ貯めているだけでも、お金の実質的な価値は目減りしていきます。浪費でもお金は減る。貯金だけでも価値は減る。

つまり、多くの大人は、子どもたちに「お金の減らし方」しか教えていないのではないか。

これは、ファイナンスを教えている私にとっても、かなり刺さる話でした。

借金についての説明も秀逸です。

世の中では「借金は悪いものだ」と言われがちです。しかし、本当にそうなのか。西野さんは、悪い借金と良い借金を分けて説明します。

消費や浪費のための借金は悪い借金です。借りたお金には利息をつけて返さなければならないのに、そのお金を使っても将来のお金は増えないからです。

一方で、「リターンが確実に見込める投資に使う借金」は、良い借金になり得ます。

もちろん、ファイナンスを教える立場からすれば、「リターンが確実に見込める投資」という表現には少し注意が必要です。本来、投資に絶対はありません。リスクとリターンをどう見積もるかがファイナンスの基本です。

ただ、おそらく西野さんは、子どもにも分かるように、あえてそう書いているのだと思います。

ここで出てくる皿洗いの例えが、非常に分かりやすいのです。

お父さんから「皿洗いをしたら1日100円あげる」と言われたとします。

一つ目の選択肢は、毎日自分で皿を洗い、毎日100円をもらうことです。これは労働の対価としてお金を得る方法です。

二つ目の選択肢は、毎日皿を洗ってお金を貯め、10か月後に約3万円の食洗機を買うことです。そこから先は、食洗機に働いてもらい、自分は皿を洗わずに100円を得ることができます。これは貯金と投資です。

三つ目の選択肢は、最初にお父さんからお金を借りて食洗機を買い、すぐに仕組みを作ることです。そして、その仕組みが生み出すお金で借金を返していく。これは借金と投資です。

この例えは、本当に見事です。

なぜなら、投資とは何か、借金とは何か、そして「仕組みに働いてもらう」とはどういうことかが、一つの話で伝わるからです。

多くの大人は、子どもに「投資は危ない」「借金はしてはいけない」と教えます。もちろん、それは善意からです。子どもに失敗してほしくない。損をしてほしくない。そう思うからこそ、危ないものから遠ざけようとする。

しかし、それによって奪っているものもあります。

それは、自分の稼働時間を超えて価値を生み出すという発想です。

労働の対価としてお金を得ることは大切です。しかし、それだけでは、自分の時間が収入の上限になります。仕組みを作ること、資産に働いてもらうこと、リスクを理解したうえでお金を投じること。そうした考え方を知らないまま大人になれば、生涯にわたる選択肢は狭くなります。

そして、ここからが私自身の反省です。

私はファイナンスを教える仕事をしています。企業研修や講座では、投資判断、資本コスト、キャッシュフロー、財務モデルについて話しています。

ところが、自分の子どもに対して、小さい頃からこうしたお金のリテラシーをきちんと伝えてきたかと言われると、まったく自信がありません。

むしろ、昔の私は「この本は良い本だから読んでおきなさい」と言って、お金に関する本を子どもに渡し、それで済ませていたように思います。

今考えると、それでは足りなかったのです。

良い本を渡すことは悪いことではありません。部下や後輩に薦めるのも、もちろん意味があります。

しかし、本当に大事なのは、その本の内容を自分自身が理解し、自分の言葉で言語化することです。そして、それを伝えたい相手に、自分の言葉で伝えることです。

「この本を読んでおきなさい」ではなく、「この本にはこういうことが書いてあって、私はこう考えた」と話すこと。

子どもに対しても、部下に対しても、後輩に対しても、本来はそうあるべきだったのだと思います。

夢と金』は、子どもに読ませたい本です。

しかし、それ以上に、大人がまず読むべき本です。

そして、読んで終わりにしてはいけない本です。

夢を持つことは大切です。しかし、夢を続けるにはお金が必要です。お金の話を避けたまま、夢だけを語っても、夢は途中で息切れしてしまいます。

本書が教えてくれるのは、「お金持ちになる方法」ではありません。

夢を終わらせないために、お金をどう理解し、どう使い、どう設計するかということです。

ファイナンスを教える立場の私にとっても、非常に勉強になる一冊でした。

そして同時に、少し反省させられる一冊でもありました。

本当に良い本は、読んだ後に「誰かに読ませたい」と思わせます。

しかし、もっと良い本は、その前にこう問いかけてくるのかもしれません。

「あなた自身は、それを自分の言葉で語れますか」と。



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