2022年1月12日、ジャパンディスプレイ(JDI)は、資本金を約2151億円減らし、1億円にすること(減資)を取締役会で決定したと発表しました。目的は累積損失の解消による財務基盤の健全化と持続的な成長に向けた資金確保を図るためとしています。
具体的には、まず2022年1月12日現在の資本金の額215,222,903,850円のうち、215,122,903,850円を減少させ、その減少額全額を「その他資本剰余金」に振り替えます。次に、「資本準備金」24,660,000,000円を「その他資本剰余金」に全額振り替えます。「資本準備金」とは、資本金と同様に株主が払込みしたもので、資本金の1/2を超えない額を「資本準備金」として積み立てておくことができます。
資本金と資本準備金は、株主の払込みによって生じる点で共通しています。一方、「その他資本剰余金」はそれら資本取引から生じた余りの金額をいいます。剰余金とある通り、繰越利益剰余金(通称、内部留保)と同様に配当金の源資となります。その点で、資本剰余金は資本金と資本準備金とは性質が異なるのです。
最後に「その他資本剰余金」のうち、288,193,339,853円を繰越利益剰余金に振り替え、繰越利益剰余金の欠損(いわゆる累積損失)を一掃したわけです。いろいろと書いてきましたが、要するに、減資後は次のように変わりますということです。
出所:2022年1月12日「臨時株主総会の開催及び基準日設定、資本金及び資本準備金の額の減少並びに剰余金の処分に関するお知らせ」オントラック作成
JDI自らも説明している通り、これらはあくまでも、純資産の部における勘定科目間の振替処理にすぎず、純資産額に変動はありません。発行済株式数も変わりませんから、1株当たりの純資産額(BPS:Book-value Per Share)も不変です。ましてやキャッシュフローに全く影響はありません。本件の目的にどうつながるのか全く分かりません。
JDIの売上高と営業利益は次のような推移となっています。売上高はまさに雪崩のごとく、下降トレンドを描いています。2022年3月期の売上高は2,970億円、営業利益は△131億円と予測していますから減収増益といえど、今だ黒字化は見えてきません。
また、キャッシュフローの推移は次の通りです。営業キャッシュフロー(営業CF)はなんと4期連続マイナスです。さらに驚くのは、フリーキャッシュフロー(FCF=営業CF+投資CF)は8年連続マイナスなのです。「累積損失の解消による財務基盤の健全化と持続的な成長に向けた資金確保は当社の中長期的な企業価値向上に資すると考えております」というJDIのコメントが虚しく響きます。資本金1億円以下になれば、税務上では「中小企業」と扱われ、一定の優遇措置が受けられますが、まさかそれを狙ったのでしょうか。蓋然性の高い復活ストーリーなき、資本金1億円への減資はむしろネガティブな印象しかありません。