日本の製造業が「モノ売りからコト売り」を合言葉に従来のハード・ウェアの売り切りモデルからの脱却を図ろうとしています。その背景には製品自体がコモディティ化し、機能や性能で差別化を図るのが難しくなってきていることがあります。また、顧客は製品そのものではなく、その製品の購入後の顧客体験(CX:カスタマー・エクスペリエンス)を重視するようになってきたこと。さらに、情報技術の発達で全てのものがインターネットでつながる世界になったことがあります。
こうした環境変化を受けて、顧客と継続的につながり、収益をあげるリカーリングモデルへの移行を目指す企業が増えています。リカーリング(recurring)とは「繰り返し起きる(発生する)」という意味です。商品や製品を販売した後も顧客と継続的に取引を行うビジネスモデルのことをリカーリングモデルといいます。
野村総合研究所によれば、リカーリングモデルは、「課金の仕方」と「提供価値」によって5つのタイプに分けられます。リカーリングモデルで一番普及しているのが、①定額モデル(サブスクリプション)です。そのほか、②IoTデータによる融資型、③成果報酬型、④マネージドサービス型(運用管理一括サービス型)、⑤デジタルワークフロー構築支援型があります。
出所:「第4回リカーリング事業の類型とその構築」青嶋稔著
伝統的な日本の製造業が、ハードウェアの売り切りモデルからリカーリングモデルにシフトし始めるときに姿を現すのが「フィッシュ(魚)」です。それまで、顧客に販売した時点あがっていた売上(収益)はしばらく減少することになります。継続するサブスクリプション収入に置き換わるためです。さらに売上(収益)が低下する中でビジネスモデル移行に伴い企業は新たなケイパビリティ(業務遂行能力)を獲得する必要があります。そのための投資の影響でコストは上がることになります。この間にフィッシュが姿を現すことになるわけです。ハードウェアの売り切りモデルの経験者が中心の日本の製造業において、赤字が続く事業に投資を続けることの難しさは容易に想像できます。まさに魚を飲む込む前に投資をやめてしまうということが起こり得るわけです。
出所:「サブスクリプション」ダイヤモンド社 テェエン・ツォ著を参考にオントラック作成
また、日本の製造業(上場企業)の8割から9割が投資判断指標として回収期間法を使っていることも問題です(参考ブログ「日本企業の投資判断手法の実態」)。回収期間法とは、投資に対して何年で回収できるかで投資判断することです。回収期間法では基本的に短期で回収できる案件が採用されることになります。つまり、回収期間が長期化するリカーリングモデルを判断するには適切ではないということです。リカーリングモデルへのシフトで大切なことは、顧客数の増加はもちろんのこと、顧客が将来にわたって企業にもらたす価値(顧客生涯価値、LTV:Life Time Value)の極大化です。ビジネスモデルシフトに伴い、投資判断を回収期間法から価値を算定するNPV法に変えなければ、「モノ売りからコト売り」は単なる掛け声で終わってしまう可能性があるのです。