未来の自動車業界を語る上で欠かせない言葉がCASE(Conneted Autonomous Shared Electric)です。これは、「コネクテッド、自動運転、シェアリング、電動化」を意味します。この自動車業界において、現在、時価総額トップの企業がテスラ(Tesla)です。そのテスラの時価総額は、9,027億ドル(約124.6兆円)、2位はトヨタ自動車で約29兆円、3位はフォルクスワーゲン(VW)で836.7億ユーロ(約11.5兆円)です。テスラがトヨタ自動車の時価総額を抜いたのは、2020年7月のことです。いまや、トヨタ自動車の4倍もの時価総額を有する存在になっています。
テスラが先月(2022年7月)に発表した2022年第2四半期(4~6月)の売上高は169億3400万ドル(約2兆3369億円、前年同期比42%増加)、営業利益は24億6400万ドル(同約3400億円、同88%増加)、売上高営業利益率は14.6%(同3.58ポイント増)と高水準の業績を達成しています。
2021年度の決算で、このテスラのCCC(Cash Conversion Cycle)がマイナスになりました。CCCは、原材料を仕入れて、生産、販売、現金回収までの日数を表します。CCCは、売上債権回転日数と棚卸資産回転日数の合計から支払債務回転日数を差し引いて求めます。そして、このCCCが短くなればなるほど、フリーキャッシュフローが増加することになります。テスラのCCCはマイナス15日とトヨタ自動車の31日、フォルクスワーゲンの74日と比較しても大幅に短いことがわかります。
出所:オントラック作成、日本経済新聞 2022年6月23日 「テスラ、製造業で異例の「運転資金不要」」記載の数値を参考
CCCのマイナスは、仕入先への支払よりも、顧客からの入金の方が早いことを意味します。つまり、売上が増加すればするほど、キャッシュが増えることを意味します。テスラの売上債権回転日数が13日と短いのは、もともと受注生産に近いことに原因があるようです。つまり、生産する前から手元にお金がある状態だということです。テスラは販売店舗も持たず(ショールームはあり)、オンラインで直販しています。
棚卸資産回転日数は45日とトヨタ自動車の50日よりも短く、フォルクスワーゲンの86日の半分近くになっています。この棚卸資産回転日数は原材料を仕入れてから販売するまでのリードタイムを表します。もともと、ピーク時には、152日あった棚卸資産回転日数をここまで短くできたのは、テスラが部品点数の削減や生産プロセスの効率化を推し進めてきたからです。日経新聞の取材にイーロン・マスクCEOはこう答えています。「地産地消を進め、仕入れから組み立て、販売までの時間を短くすればキャッシュが次々と入ってくる」
また、原材料を仕入れてから仕入先への代金の支払いまでの日数(支払債務回転日数)は73日と、トヨタ自動車の59日、フォルクスワーゲンの44日と比較しても長いことがわかります。これは仕入先にとっては、テスラからの現金回収が遅いことを意味しますので好ましいものではありません。この一見すると仕入先に不利な取引条件は、テスラの交渉力の強さの結果なのでしょうか。いずれにしても、こうして生み出されたキャッシュを中国や欧州などの工場建設やバッテリー開発などの投資に向けています。テスラの更なる成長が楽しみです。