2018年8月30日付ロイターによれば、米著名投資家ウォーレン・バフェット氏が率いるバークシャー・ハサウェイが2012年以来6年ぶりに自社株買いを実施したそうです。
バフェットは、自らの投資哲学を頑なに守りバークシャーを今や時価総額5400億ドル(約62兆円)の巨人へと育て上げました。日本でトップを誇るトヨタ自動車の時価総額が約23兆円ですから、その規模の大きさが分かります。
自社株買いとは、企業が手元の余剰現金を使って、市場に流通している自社の株式を株主から買い戻すことです。バークシャーは2011年9月、1株当たり純資産の1.1倍以下の水準で自社株を買い戻すと発表。その翌年には、上限を1.2倍に引き上げ、12億ドル相当の自社株を買い戻した経緯があります。
さらに、今年の7月には「控えめな判断でバークシャーの本質的価値を下回っている」と見なせば、いつでも自社株買いを行えると、自社株買いに関する社内規定の緩和を発表していました。今後は、自社株買いの買戻し価格がバークシャーの「内在価値」を下回っているとバフェットが判断すれば、自社株買いを実施できるようになったのです。
内在価値とは、バークシャーが考える自社の理論株価という意味です。「内在価値>買戻し価格」とバフェットが判断すれば自社株買いを実施するというのは、理にかなっています。価値と価格を比較して、価格が低ければ(=割安であれば)、自社株買いは株主価値を高めることになるからです。
※このメカニズムの詳細は、ファイナンス用語辞典「自社株買い」ご参照ください
自社株買いとは、配当と同じように株主還元のひとつの手段です。ですからバークシャーは、手元の余剰現金を株主に還元し始めたと言えるわけです。2017年度の財務諸表によれば、バークシャーの現金及び現金同等物は、約1,040億ドル(約12兆円)までになっています。
かつて、バフェットは、企業の手元現金に関してこんなことを言っています。
健全な経営においては、現金は最小化されるべきもの、つまりROEなどの指標の足を引っ張る非生産的な資産と見なされることがある。しかし、事業にとっての現金は、人間にとっての酸素と同じである。手に入る時には考えもせず、手に入らない時にはそれだけで頭がいっぱいになる(出典:バフェットに学ぶ価値創造経営 手島直樹著)
バフェットは、手元現金を保有しておくことに対して決してネガティブではなく、万が一の時に備えるために必要であるというニュアンスで語っています。実際、バークシャーはこの潤沢な手元現金を使って、リーマンショック時のように市場全体が値下げした時に有望な投資先を割安で手に入れてきたとも言えるのです。
そのバフェットが自社株買いを開始するというのは、心変わりというよりも既存の株主を満足させるような有望な投資先が今や見つからないとも言えるかも知れません。「オマハの賢人」ともいわれるバフェットですが、今年で88歳を迎えます。今後の投資動向は注目に値します。