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価値創造のプロセスを理解する- DCFモデルと5つの資産

今回のブログは私が感銘を受けた書籍『「見えない資産」経営』を紹介したいと思います。実際にこの書籍を購入したのは、5年前にさかのぼります。読まずに本棚にかざってあったこの本を偶然手にとり、読み始めたら止まらなくなってしまいました。まさに、今の私が求めていたものといえます。経営者だけでなく、すべてのビジネスパーソンに読んでいただきたい本です。

伝統的な会計の考え方で言えば、企業の価値は、企業が保有する物的資産と金融資産によって評価されることになっています。物的資産は、土地、建物、器具・備品、商品や製品の在庫です。また、金融資産は、現金/預金、売掛金、有価証券などです。

企業のバランスシートに資産として記載されているのは、目に見える資産である物的資産と金融資産のみです。これらの「見える資産」は企業の一面を表しているにすぎないことは明白です。企業の価値を決めるのは、物的資産や金融資産だけではなく、人材、顧客、チャネル、研究開発、組織、ブランド、知識、ビジネスモデルといった目に見えない資産もあることに異論を唱える人はいないでしょう。

この本は、企業価値の源泉となる資産を5つに分類しています。「見える資産」として、物的資産と金融資産、「見えない資産」として、組織資産、人的資産、顧客資産です。この考え方は、著者がかつて勤務していたアーサー・アンダーセンのバリューダイナミクスというフレームワークが下地となっています。著者は、見えない資産をどのように定義しているのでしょうか。本書から抜粋してみます。

組織資産

企業で共有されている組織全体としての力を指します。個々の企業には、各々の企業らしさや強みがあり、そこに磨きをかけることができれば、組織資産は大きくなっていきます。逆に企業らしさや強みが失われていくと、組織資産は小さくなっていきます。企業が当初持っていた情熱を忘れ、あるいは情熱が変質して傲慢になり、官僚主義や無気力で覆われると組織資産はマイナスになっていきます。組織資産のキーワードは人々の情熱をあらわす「ワクワク」であり、「ハートマーク」である。

人的資産

従業員がどれだけイキイキと働き、プロフェッショナルとして成長しているか、という視点を指します。働いている人が増えていき、各人が嬉々として働き、さまざまな経験を通じて成長していけば人的資産は大きくなっていきます。逆に従業員がヤル気をなくし、成長が止まってしまうと人的資産は小さくなっていきます。従業員以外の人的資産には、その会社を応援している「サポーター」も含まれます。人的資産のキーワードは「イキイキ」である。

顧客資産

企業が生み出す製品・サービスを購入する顧客がどれだけいるか、顧客がその会社の製品・サービスをどれだけ支持しているか、という視点を指します。顧客が製品・サービスを支持し、購入する回数や単価が上がるか、または顧客数が増えれば、顧客資産は大きくなっていきます。また、顧客資産には、製品・サービスを新規に購入してくれる新規顧客、さらには、潜在的な見込み客も含まれます。顧客資産のキーワードは「ニコニコ」である。

大事なことは、この5つの資産は連動していることです。まさに、見える資産と見えない資産を結びつける価値創造のプロセスがあるのです。組織資産を中心に、人的資産、物的資産、顧客資産へと想いが伝わり結果として金融資産が増え、それがさらに再投資されることを通じて、年輪のように大きくなっていくと企業価値は大きくなっていくのです。


出所:『「見えない資産」経営

本書が他の本と一線を画すのは、5つの資産とDCFモデルを結びつけているということです。さらに長期の財務分析によって、企業のステージを6つ(創業期、成長期、成熟期、衰退期、反転期、復活期)に分けて、価値創造のプロセスを各ステージに連動して議論できるようなツールを用意してくれていることです。

この本は単なる概念を説明したものではありません。先述した「価値創造のプロセス」「5つの資産とDCFモデルの連動」「長期の財務分析」だけでなく、「バリュートライアングル」「企業価値の構造化」「3つの輪」「顧客資産の2軸のマッピング」「人的資産の2軸のマッピング」「4本のアンテナ」など実際に経営で使える手法を説明してくれています。住友金属工業やサイバーエージェントなどの事例も豊富です。ただ、間違えて欲しくないのは、この本は経営の正解を教えてくれるものではないことです。あくまでも、こうした手法を使って、脳に汗をかかなくてはいけないのは他ならぬ私たちです。その意味では、この本は簡単に読めるハウツー本ではありません。

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