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元日産社員が語るゴーン氏逮捕劇

ゴーン氏逮捕の報道は、私自身とても驚きました。当初は多額の報酬を有価証券報告書に記載していなかった容疑ということでした。連日の報道によれば、今やこの事件が、フランス政府と日本政府の外交問題に発展しそうな勢いです。

私が日産自動車に在籍していたのは2002年から2005年までです。ちょうど退職する年である2005年に上司らとゴーン氏が議長を務めるエグゼクティブ・コミッティーに提案しに行くことがありました。

当時の副社長の指示で提案することになったある部門の改革案件です。私たちの提案に対して、ゴーン氏から「他部門の課題をあげつらう前に自分たち財務部門の課題はないとどうして言えるんだ」と詰問されたのです。

その際に、課題認識を私たちと共有していたはずの副社長は、ゴーン氏の横に座りながらも、我々をいっさいバックアップすることなしに、むしろゴーン氏に同調するような発言をしたのです。私がその時に感じたことは、ゴーン氏の圧倒的な威圧感です。副社長の態度に憤りを感じるまえにむしろ同情しました。あれでは、ゴーン氏に意見を言う気も萎えてしまうことは容易に想像できたからです。

退職することが決まっていて自己保身する必要のない私ですら、ゴーン氏に対して質問することが出来ませんでした。最後のゴーン氏とのミーティングだからと最初からゴーン氏に質問する気満々で臨んだのです。そんな私でさえ躊躇させてしまう場の雰囲気があったのです。あの当時はカリスマ経営者がまとうオーラと勝手に解釈していました。

実は、当時から社員の間ではゴーン氏の自宅のリフォーム代金を日産が負担していることなどは知られていました。当時の私は、「日産再建の功労者であるゴーン氏なんだから、それくらい日産が負担したって構わないよな」というある種の思考停止に陥っていました。また社内にもそれを許容する空気があったのです。

ゆでガエルの寓話よろしくゴーン氏の私的流用が少しずつ拡大していったとしても社内にいる人間にはそれをおかしなものとして指摘することができなかった可能性はあります。何といっても、ゴーン氏は、日産V字回復の立役者であり、カリスマ経営者であり、社員からすれば雲の上の存在だったわけですから。

事の真偽はともかくとしても、この事件で明らかにされたのは日産自動車のコーポレートガバナンスの欠如です。3年前のことです。私の元同僚から日産のガバナンスの欠如に関する話を聞いたことがあります。CEOオフィスに「報酬委員会」設立の提案をして何度か却下されたと言う話です。元同僚は明言を避けていましたが、そこにゴーン氏の意向が反映されたであろうことは容易に想像できました。

コーポレートガバナンスは、「企業統治」と訳されますが、松田千恵子氏は、著書「これならわかる コーポレートガバナンスの教科書」でこう説明しています。

コーポレートガバナンスとは、「社長の暴走と逃走を防ぐ仕組み」である

この「社長の暴走と逃走を防ぐ仕組み」が日産自動車には十分に確立されていなかったと言えます。これがこの事件の本質だと思います。この事件を対岸の火事とするのではなく、これをきっかけに日本企業のコーポレートガバナンスのあり方に関する議論が盛り上がってくることを期待しています。

追記)本件に関して、取材のお申込みを多数いただいておりますが、一切お断りしておりますので、ご了承ください。

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